研究課題
本研究課題では、酸化ストレスにより誘起される肝線維化病変の起点として脂溶性情報伝達系の中核に位置するジアシルグリセロール(DAG)の過酸化に着目し、in vitro培養細胞系およびin vivo動物モデル実験系を用いて過酸化DAGにより誘導される肝線維化の分子機構を明らかにすることを目的とする。これまでの肝線維化モデル動物および初代培養肝星細胞系を用いた検討の結果、過酸化DAGが肝星細胞に作用して、肝線維化を亢進することが判明した。平成29年度は、酸化ストレスが亢進した肝組織中において過酸化DAGが産生される詳細な分子機構を解析するために、質量分析器を用いた過酸化DAGの精密測定システムを新たに開発することに成功した。生体中において脂質の酸化物が産生される原因として、(1)ラジカル酸化、(2)一重項酸素酸化、(3)酵素酸化、の3つに分けることができる。それぞれの酸化反応からは異なる脂質過酸化物の異性体分子が生じる。我々が開発した分析法では、過酸化DAGの異性体分子を別々に定量することにより、上記(1)~(3)の中のどの反応によって過酸化DAGが生成されるかを明らかにすることが出来る。現在、四塩化炭素を12週間投与して線維化が誘導された肝組織を用いて解析を行っている。また、過酸化DAGの還元消去作用を有するエブセレンを投与することにより、過酸化DAGの産生が抑制されるとともに、肝線維化が顕著に抑制されることが判明した。以上の結果から、酸化ストレスを起点として誘導される肝線維化病態では、過酸化DAGが重要な役割を果たしていると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
質量分析器を用いたdiacylglycerol(DAG)の過酸化物(過酸化DAG)の精密測定システムを構築することができた。本手法により、肝線維化の起点となる過酸化DAGが生じる分子機構を明らかにすることが可能となった。過酸化DAGが直接、肝線維化を誘導することを示す重要な知見が得られており、現在、この過酸化DAGの詳細な産生機構を解明に向けて検討を進めている。
順調に研究が進んでおり、今後も研究実施計画に沿って着実に実験を進めていきたい。また、国内外の臓器線維化および脂質過酸化病態の研究を行っている研究者と最新の情報を共有し、また、共同研究を進めることで大きく研究を発展させたいと考えている。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Science of Food
巻: - ページ: 1-11
10.1038/s41538-017-0009-x
Sci Rep
巻: 12 ページ: 11405
10.1038/s41598-017-11319-5