研究課題
Protein kinase c(PKC)活性化作用を有する脂溶性情報伝達物質であるdiacylglycerol(DAG)が酸化されて生じる酸化型DAGが強力なPKC活性化作用を有すること、また、この酸化型DAGが肝線維化の病態進行に重要な役割を果たしていることが判明している。酸化型DAGを起点とする肝線維化の分子機構の詳細な解析には、酸化型DAGを高感度に分析する手法が必須であった。我々はトリプル四重極質量分析器を用いることで酸化型DAGおよびその他の種々の脂質酸化物を高感度に分析することのできるシステムの開発に成功した。生体中で脂質過酸化反応を引き起こす分子(生成原因)はラジカル、一重項酸素、酵素の3種であることが判っているが、それぞれの生成原因によって生じる脂質過酸化物の異性体は異なっている。我々が開発した脂質過酸化物分析システムは、脂質過酸化物の異性体の分析が可能であり、酸化型DAGがどのような生成原因によって生じているか知ることができる(過酸化脂質異性体分析法)。この手法を用いて、脂質過酸化反応を介して肝線維化を誘導する四塩化炭素投与モデル動物の肝臓中の酸化型DAGを分析した結果、初期に脂質過酸化反応を誘導するのはラジカル種でありが、その後、一重項酸素(炎症細胞によって産生されることが判っている)が脂質過酸化反応のドライビングフォースとなっていることが明らかとなった。これらの結果から、脂質過酸化反応を起点とする肝線維化の病態進行には炎症細胞が重要な役割を果たしていることが示唆された。今後、過酸化脂質異性体分析法を用いてヒト線維症患者組織における酸化型DAGの動態を解析することにより本疾患の治療戦略の拠点となる知見が得られるものと考えられる。
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