研究課題/領域番号 |
16K08724
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
後藤 政広 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (00291138)
|
研究分担者 |
新井 恵吏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40446547)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | マイクロRNA / 腎細胞がん / miR-200 / EMT |
研究実績の概要 |
腎発がんにおけるmicroRNA (miRNA)異常の意義を明らかにするために、腎淡明細胞がん95症例のがん組織検体(T)と非がん腎皮質組織検体(N)のRNA試料において、miRNA発現アレイを用いてmiRNA発現を網羅的に評価した。Tにおける発現がNに比して有意に変化したmiRNAのうち、2倍以上発現亢進していたものは39分子、1/2未満に発現低下していたものは152分子、合わせて191分子のmiRNAを同定した。腎淡明細胞がんにおいて発現異常を示したmiRNA 191分子を用いてMetaCoreパスウエイ解析を行ったところ、このようなmiRNAは4つの分子経路に有意に集積することが判明し、最も有意だったのは上皮間葉移行(EMT)に関わる分子経路であり、miR-200ファミリーとして知られるmiR-141、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-429が含まれていた。これら5つのmiRNAはTにおいて高頻度に発現低下を認め、特にmiR-200cは95症例中93症例(97.9%)で発現低下を示した。腎淡明細胞がん95症例中、RNA試料の再利用可能であった92症例のTおよびNを用いて、これらmiR-200ファミリーとターゲット遺伝子ZEB1、ZEB2、さらに下流のターゲット遺伝子CDH1の発現を定量RT-PCR法で検証すると、TにおけるZEB1、ZEB2の発現は有意に亢進し、CDH1の発現は有意に低下していた。さらにmiR-200 ファミリーとCDH1の発現レベルは腎淡明細胞がんの悪性進展や予後に有意に逆相関しており、miR-200ファミリーの発現低下が腎淡明細胞がんの悪性進展、特にEMT等に寄与する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、多数の腎淡明細胞がん症例より得られた質の高いがん組織検体(T)と対照非がん腎皮質組織検体(N)において、microRNA (miRNA)発現の網羅的解析を行い、腎発がんにおけるmiRNA異常の意義を明らかにすることを第1の目的としている。miRNA発現アレイ解析からTにおいてNに比して有意に発現亢進する39分子、有意に発現低下する152分子、合わせて191分子のmiRNAを同定し、その中に発がん促進的に働くoncogenic miRNAと発がん抑制的に働くtumor suppressive miRNAの双方が含まれていたことから、腎発がんにおいてmiRNAの発現異常が関与している可能性が示唆され、さらに解析を進めている。また、発現異常を示したmiRNA 191分子を用いたMetaCoreパスウエイ解析により、4つの分子経路が判明し、その1つであるEMTに関わる分子経路(miR-200ファミリーと標的遺伝子ZEB1、ZEB2、CDH1)が腎淡明細胞がんの悪性進展に寄与する可能性を明らかにすることができた。現在、腎がん細胞株においてmiR-200ファミリーの発現制御による標的遺伝子ZEB1、ZEB2、CDH1の発現解析と遺伝子機能解析の検証実験を進めている。また、他の分子経路についても順次解析を行い、腎細胞がんの発生と進展への寄与を検証している。よって、本研究は現時点でおおむね順調に進捗していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
microRNA (miRNA)の発現調節機構を明らかにするため、多層オミックスプロジェクトで既に取得しているDNAメチル化アレイ解析結果を参照する。腎淡明細胞がんにおいて発現異常を示したmiRNA 191分子の転写調節領域に、DNAメチル化異常を認める場合、同一組織検体のゲノムDNA検体を用い、パイロシークエンシング法で転写調節領域のDNAメチル化率を精密定量する。miRNA発現量とDNAメチル化率が組織検体において実際に逆相関することを検証する。着目するmiRNAの発現量が低値である腎がん細胞株を、脱メチル化剤5-Aza-2’-deoxycytidineで処理し、miRNAの発現が回復することを証明する。以上により、注目するmiRNAがDNAメチル化異常により発現異常を来しているかを明らかにする。 腎淡明細胞がんにおいて発現異常を示したmiRNA 191分子の標的遺伝子のうち、非がん腎組織で発現量の変化が特に大きい複数の遺伝子に着目し、腎がん細胞株において当該mRNAの発現制御を行い、生存能・増殖能・アポトーシス・接着能・運動能・浸潤能をin vitroで検証する。以上により、がんの生物学的特性の決定に寄与し得る標的遺伝子を絞り込む。 miRNA発現アレイ解析データを多層オミックスプロジェクトにおいて既に収集しているオミックスデータとともに、REFSシステムに投入する。これにより、ゲノム・エピゲノム・miRNA発現を含むトランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム各層間の相互影響を俯瞰する視点で、腎細胞がんの発生と進展の諸過程に関わる分子・分子経路を網羅的に同定できると期待される。さらに、その阻害により予後の改善が最も顕著であるとin silicoノックダウンでシュミレーションされた分子を、腎細胞がんの新規治療標的候補と考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
交付申請当時、予算計上していたmicroRNA発現アレイ解析の試薬等の消耗品費を他の研究費より支出することになった。そのため、本年度は定量RT-PCR解析、遺伝子機能解析等の消耗品費や論文校正費等を順調に支出したが、収支に差額が生じてしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
現在進行中の定量RT-PCR解析、遺伝子機能解析等の消耗品費に加えて、新たな候補遺伝子の定量RT-PCR解析、遺伝子機能解析、DNAメチル化定量等の消耗品費、学会発表の旅費等として支出する予定である。
|