研究課題/領域番号 |
16K08724
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
後藤 政広 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (00291138)
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研究分担者 |
新井 恵吏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40446547)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 腎細胞がん / miR-200 / EMT |
研究実績の概要 |
腎細胞がんにおいて上皮間葉移行(EMT)に関わるmicroRNA(miRNA)、miR-200ファミリーの作用機序を検証するために、腎細胞がん細胞株を用いて、miR-200ファミリーのミミックおよびインヒビターを細胞導入して48時間培養した後、導入細胞よりRNAを抽出し、定量RT-PCR法でmRNA発現を確認した。通常培養下でmiR-141および miR-200cの発現が低い腎細胞がん株786-O細胞にmiR-141または miR-200cのミミックを導入したところ、miR-200ファミリーのターゲット遺伝子であるZEB1、ZEB2のmRNA発現はコントロールに比して有意に低下し、さらに下流のターゲット遺伝子であるCDH1のmRNA発現は有意に亢進した。一方、通常培養下でmiR-200ファミリーの発現が比較的高い腎細胞がん細胞株ACHN細胞に5つのインヒビター (miR-141、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-429)を混合導入したところ、ZEB1のmRNA発現はコントロールに比して有意に亢進し、CDH1のmRNA発現は有意に低下した。加えて、細胞浸潤におけるmiRNA-200ファミリーの影響を確認するために、腎細胞がん細胞株786-O細胞に miR-200cのミミックを細胞導入して24時間培養した後Transwellを用いてインベージョンアッセイを行ったところ、細胞の浸潤能はコントロールに比して有意に低下した。 以上、in vitro細胞導入実験においてmiR-200ファミリーの発現低下がEMT分子経路に関与しており、腎細胞がんの悪性進展に寄与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎発がんにおけるmiRNAの発現異常の意義を明らかにするために、miRNA発現アレイを用いて腎細胞がん95症例のmiRNA発現を網羅的に評価した。がん組織で発現異常を示した191分子のmiRNAには発がん促進的に働くoncogenic miRNAと発がん抑制的に働くtumor suppressive miRNAの双方が含まれていたことから、腎発がんにおいてmiRNAの発現異常が関与している可能性が示唆された。 191分子のmiRNAを用いてMetaCoreパスウエイ解析を行ったところ、4つの分子経路に有意に集積することが判明し、最も有意だったEMTに関わる分子経路にはmiR-200ファミリー(miR-141、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-429)が含まれていた。これらのmiR-200ファミリーは腎細胞がんにおいて高頻度に発現低下を認めており、そのターゲット遺伝子ZEB1、ZEB2、さらに下流のターゲット遺伝子CDH1の発現を定量RT-PCR法で検証すると、がん組織におけるZEB1、ZEB2のmRNA発現は非がん組織に比して有意に亢進し、CDH1のmRNA発現は有意に低下していた。in vitro細胞導入実験において腎細胞がん細胞株にmiR-200ファミリーを発現させると、ZEB1、ZEB2の発現は抑制され、CDH1の発現が亢進した。一方、miR-200ファミリーの発現をブロックするとZEB1の発現が亢進し、CDH1の発現が抑制された。加えて、miR-200ファミリーを発現させた細胞は浸潤能が低下することが判明した。臨床病理学的解析においてmiR-200 ファミリーとCDH1の発現レベルは腎細胞がんの悪性進展や予後に有意に逆相関しており、miR-200ファミリーの発現低下が腎細胞がんの悪性進展、特にEMT等に寄与する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
腎細胞がんにおけるmiRNA発現アレイ解析データを多層オミックスプロジェクトにおいて既に収集しているオミックスデータとともに、REFSシステムに投入する。これにより、ゲノム・エピゲノム・miRNA発現を含むトランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム各層間の相互影響を俯瞰する視点で、腎細胞がんの発生と進展の諸過程に関わる分子・分子経路を網羅的に同定できると期待される。さらに、その阻害により予後の改善が最も顕著であるとin silicoノックダウンでシュミレーションされた分子を、腎細胞がんの新規治療標的候補と考える。 腎細胞がんにおけるmiRNAの発現調節機構を明らかにするため、多層オミックスプロジェクトで既に取得しているDNAメチル化アレイ解析結果を参照する。腎細胞がんにおいて発現異常を示した191分子、特にmiR-200ファミリーのmiRNA転写調節領域に、DNAメチル化異常があるか確認し、miRNA発現アレイ解析と同一組織検体のゲノムDNA検体を用い、パイロシークエンシング法で転写調節領域のDNAメチル化率を精密定量する。miRNA発現量とDNAメチル化率が組織検体において実際に逆相関することを検証する。着目するmiRNAの発現量が低値である腎がん細胞株を、脱メチル化剤5-Aza-2’-deoxycytidineで処理し、miRNAの発現が回復することを証明する。以上により、注目するmiRNAがDNAメチル化異常により発現異常を来しているかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は定量RT-PCR解析、遺伝子機能解析等の消耗品費、情報収集のための学会参加の旅費等を支出したが、実験プランの変更等により 計上していた予算と収支に差額が生じてしまった。 (使用計画) 現在進行中の解析にかかる諸経費に加えて、新たな候補遺伝子の定量RT-PCR解析、遺伝子機能解析、DNAメチル化定量等の消耗品費、学会発表の旅費等として支出する予定である。
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