腎発がんにおけるmiRNAの発現異常の意義を明らかにするために、腎細胞がん95症例より得られた質の高いがん組織(T)および非がん腎皮質組織(N)検体のRNAアレイ解析を用いてmiRNA発現を網羅的に評価した。Tにおいて発現異常を示したmiRNA 191分子を用いてパスウエイ解析を行ったところ、miR-200ファミリーに関わる上皮間葉移行(EMT)の分子経路に有意に集積することが判明した。再利用可能であった92症例のTおよびNのRNA試料を用いて、miR-200ファミリーとターゲット遺伝子ZEB1、ZEB2、さらに下流のCDH1の発現を定量RT-PCR法で検証すると、TにおけるZEB1、ZEB2の発現はNに比して有意に亢進し、CDH1の発現は有意に低下していた。さらにmiR-200 ファミリーとCDH1の発現レベルは腎細胞がんの悪性進展や予後に有意に逆相関した。miR-200ファミリーの作用機序を検証するために、miR-200ファミリーのmiRNAミミックおよびmiRNAインヒビターを腎細胞がん株に導入すると、ZEB1、ZEB2およびCDH1 発現の亢進・低下を再現でき、細胞浸潤能に差が生じた。次にmiR-200ファミリーの発現調節機構を明らかにするために、腎細胞がん92症例のエピゲノムデーターを用いてDNAメチル化状態を評価した。Tにおける12番染色体上のmiR-200クラスター(miR-141/miR-200c)の転写調節領域DNAメチル化は、Nに比して有意に亢進を認めた。さらに、腎細胞がん株に脱メチル化剤5-Aza-2’-deoxycytidineを処理すると、miR-141およびmiR-200cの発現が回復することを確認した。以上のことから、miR-200ファミリーはDNAメチル化によって発現抑制され、EMT等に寄与し腎細胞がんの悪性進展に関与する可能性が示唆された。
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