研究課題
マウス慢性GVHDモデルを用いて、慢性GVHD発症時には、骨髄線維化を伴う広範な血球減少が発症すること、骨髄線維化の進展にはPDGF-A, CTGFなどの成長因子を介した、NF-kb, STATパスウェイが関与すること、イマチニブ投与によりPDGFシグナルを阻害すると、GVHDに伴うCol3やSpp1などの線維化マーカー遺伝子の発現が顕著に抑制され、骨髄線維化病変が抑制されること、一方で汎血球減少はイマチニブにより改善せず、急性GVHD成立後の骨髄線維化の進展は、骨髄の造血不全に必須では無いことを明らかにしてきた。今年度は、慢性GVHDの遷延に関わる病的T細胞の維持機構について解析した。移植後1ヶ月以上経過した宿主体内に存在するドナーTは、ドナー成熟T細胞に由来するgraft-Tと、造血幹細胞から胸腺分化を経て新規に産生されるHSC-Tに大別される。これら2種類のT細胞の動態を解析したところ、移植後2ヶ月を超えてもHSC-Tではなく増殖能、サイトカイン産生脳などを持った機能的なgraft-Tが慢性GVHDの標的臓器で多数を占めていることが明らかになった。移植後40日目のCD8陽性graft-Tの抗原反応性を解析したところ、宿主抗原を取り込んだgraft professional APCによる間接提示を認識することで、標的臓器に於いて維持されていることが示唆された。さらに、graft-Tを除去すると標的臓器においてHSC-Tが代償的に増加し、graft-TとHSC-Tの総和としてはほぼ一定に収まること、すなわち病的T細胞を維持するニッチには一定のキャパシティがあることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
慢性GVHDの遷延化に関わるgraft-TとHSC-Tの維持機構や、病的T細胞ニッチの存在を明らかに出来た。
GVHD(-)およびGVHD(+)群のマウスから、移植後経時的に大腿骨、下腿骨から骨髄細胞を酵素法により調整し、フローサイトメトリーにより浸潤ドナーT細胞サブセットならびに、造血幹細胞以降の各分化段階にある血球画分を解析し、GVHDによる造血異常の作用点を明らかにする。また、免疫表現系と、各種レポーターマウスを用いて、骨芽細胞、線維芽細胞などの間葉系細胞ならびに内皮細胞の量的変化を定量する。造血系細胞および造血ニッチ細胞数の経時解析において、GVHD(-)およびGVHD(+)群の特徴的な差異、またはGVHD(+)群に特徴的な転機を認めた時点については、骨髄組織またはソーティングにより純化したドナーT細胞および造血ニッチ構成細胞集団に関する次世代DNAシークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を行う。造血ニッチ構成細胞における性質変化の分子機序を解析するため、さらにデータベースに基づくネットワーク解析を行い、病的な性質変化に関わる転写因子や、上流および下流シグナルを明らかにする。
おおよそ計画通りに進行したが、年度末に研究室移転作業などの業務におわれ、完全消化する余力が無かったため。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件)
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