研究課題
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は高率に肝硬変・肝細胞癌へ進展する病態として注目されている。申請者らはメラノコルチン4型受容体欠損マウス(MC4R欠損マウス)を用いて、肥満による代謝障害を背景に脂肪肝から肝線維化を発症するNASHモデル(慢性モデル)を確立した。さらに、NASHの肝臓において細胞死に陥った肝細胞 をマクロファージが取り囲むhCLS(hepatic crown-like structure)が多数認められ、炎症・線維化の起点となっていることを見出した。本研究では、hCLS構成マクロファージの動態、および線維化形成における意義を検討した。CCR2欠損マウスの骨髄をMC4R欠損マウスに移植し、20週間の高脂肪食負荷を行ったところ、肝臓中の浸潤性マクロファージは著明に減少したが、常在性マクロファージには変化がなく、hCLS形成や肝線維化はコントロール群と同等に認められた。従来の慢性モデルに加え、単純性脂肪肝を発症したMC4R欠損マウスにごく低容量の四塩化炭素を単回投与することで、肝細胞風船様変性、hCLS形成、肝線維化を1週間の経過で発症する短期モデルを確立した。短期モデルを用いて常在性マクロファージを蛍光色素PKH26にて標臓後に四塩化炭素を投与したところ、PKH26陽性のhCLSが認められた。さらに、短期モデルを経時的に解析すると、hCLSの増加に伴って活性化マクロファージマーカーであるCD11cの陽性率が増加することが明らかとなった。以上から、hCLSは常在性マクロファージが中心となって形成され、細胞死に陥った肝細胞との相互作用により形質が変化すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は申請者が中心となって既に報告している慢性モデルに加え、より短期間に肝細胞死を起点として線維化形成を評価できる短期モデルの確立と最適化を行った。慢性モデルでは病態が長期間にわたって形成されるため、マクロファージの動態や形質変化を評価することが困難であったが、短期モデルを用いることでマクロファージの追跡やhCLS形成過程の変化を捉えることができた。
肥満脂肪組織あるいは脂肪肝・線維化モデルにおいて浸潤性マクロファージの重要性が指摘されてきたが、本研究において常在性マクロファージが中心となってhCLSを形成し、肝線維化に寄与することが示唆されている。今後さらに遺伝子発現あるいは組織学的解析によってhCLS構成マクロファージの性質を検討し、さらに肝線維化発症に対する機能的意義を検証する。hCLS構成マクロファージはマクロファージ消去によく用いられるクロドロネートリポソームに対して抵抗性であることがわかっているため、常在性マクロファージ特異的にジフテリア毒素受容体を発現するマウスを用いて検討を行う。また、死細胞との相互作用によってマクロファージの形質が変化する分子機構を明らかにするため、培養系の確立を試みる。
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Sci Rep
巻: 7 ページ: 44754
10.1038/srep44754
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