研究課題/領域番号 |
16K08733
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
馬場 智久 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (00452095)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 慢性骨髄性白血病 / 炎症性ケモカイン / 細胞間競合拮抗 |
研究実績の概要 |
慢性骨髄性白血病(CML)の発症初期過程における白血病細胞と正常造血システム間での相互作用を解明するために研究代表が開発した、BCR-ABL 遺伝子を遺伝子導入したCML 幹細胞をX 線非照射マウスの骨髄内に直接移植し、正常造血系を維持した状態で白血病を発症させるCML モデルを用いて、研究代表者はCML病態生理の解析を行った。その結果、CML 発症初期過程において、炎症性ケモカインの一つであるCCL3 が骨髄内においてCML 幹細胞が維持・増殖するのに重要な役割を担っていることを明らかにした。 これらの解析結果を踏まえ、本研究課題の初年度は正常造血系、さらには白血病性造血系におけるCCL3産生細胞の同定、さらには各造血過程における役割を検討することで以下の結果を得た。 ①正常造血系においては、骨髄内で分化した好塩基球が特異的にCCL3を産生していた。一方で、白血病性造血系では、CML幹細胞から分化して生じた多数の好塩基球様の白血病細胞が大量のCCL3を産生していた。 ②骨髄移植後の正常血球再構築過程で、CCL3シグナルを阻害、もしくはCCL3産生好塩基球を枯渇させると、骨髄内で正常造血幹・前駆細胞の増殖が亢進することで、過剰に各種血液細胞が再構築された。 以上の結果から、正常・白血病性造血系において、好塩基球がCCL3を恒常的に産生し、正常造血幹・前駆細胞の増殖を負に制御する働きがあることを明らかにした。CML患者において特徴的に増加することが古くから知られている好塩基球様の細胞が、CML発症過程における白血病細胞と正常造血システム間での拮抗的相互作用において、中心的な役割を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書の研究計画に記載した、28年度予定の正常造血系、さらには白血病造血系におけるCCL3産生細胞の同定については、骨髄内で分化する好塩基球が、特異的なCCL3産生細胞であることを明らかにしたため、予定通り遂行することができたと考えられる。さらに、29年度の研究計画で予定していた、正常造血過程におけるCCL3・CCL3産生細胞の役割についても、骨髄移植実験モデルにおける血液細胞再構築過程を観察することで、好塩基球から産生されるCCL3が、特異的レセプターCCR1・CCR5を発現している正常造血幹・前駆細胞の増殖を制御する働きがあることを明らかにしており、当初の予定以上に研究が進捗したと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の研究から、好塩基球が骨髄内で恒常的に産生しているCCL3が、正常な造血幹・前駆細胞に対して特異的に増殖抑制作用を示すことを明らかにするとともに、CML発症初期過程における白血病細胞と正常造血システム間でのCCL3を介した拮抗的相互作用が、病態生理学的に重要な役割を担っている可能性が強く示唆する結果が得られた。 したがって、今後の方針としては、申請書の29年度以降の研究計画に記載した通り、X線非照射マウスCMLモデルを用いて、CCL3、CCL3産生好塩基球を分子・細胞標的とした治療・発症予防効果の検討を行う。本研究計画を遂行するうえで必要な、CCL3遺伝子、CCL3レセプター遺伝子欠損マウスは、所属研究所動物実験施設で飼育維持している。さらに、好塩基球を特異的に除去することが可能な遺伝子改変マウス、CCL3阻害活性を示す低分子阻害剤マラビロクも、すでに入手済みである。
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