昨年度までの研究成果として、慢性骨髄性白血病(CML)の発症初期過程において、CML白血病幹細胞から分化誘導する好塩基球様の白血病細胞が、骨髄内で増殖するとともに炎症性ケモカインCCL3を恒常的に産生し、正常造血幹・前駆細胞の増殖を選択的に抑制することでCML病態の増悪・進展に寄与していることを明らかにした。さらに、この分子・細胞機序を標的とした治療法の確立として、CML発症初期過程における好塩基球様の白血病細胞の選択的除去、もしくはCCL3の阻害剤マラビロクを経口投与することで、CMLの発症を効果的に予防できることを明らかにした。しかしながら、CML発症後における治療効果は限定的であった。 最終年度は、これまでの研究成果を踏まえ、一般的な白血病の根治を目的とした治療法である、骨髄移植療法との併用の検討に着手した。骨髄移植治療の前処置として、異なる線量でX線を照射し、正常ドナーマウス由来の骨髄細胞を移植し、最適な治療条件の検討を行った結果、予想外にも長期的に生存したマウスにおいて、正常ドナーから新たに白血病が発症していることを見出した。 本研究課題を遂行することで、CMLの病態生理に関わる新たな分子・細胞機序を明らかにしたため、十分な成果が得られたと考えられる。ただし、最終年度に見出した骨髄移植治療後の正常ドナー細胞の白血病化については、臨床的にもドナー細胞由来白血病として問題視されている。また、本研究課題で最終目標としている、白血病細胞と正常造血細胞との競合的相互作用を標的とした新たな治療法の確立において、正常ドナー骨髄細胞の白血病化の原因解明とその克服は急務であり、継続すべき研究課題として現在解析中である。
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