研究課題
本研究では、「 PS(フォスファチジルセリン)の過酸化物がaPKCの過剰活性化を引き起こし上皮管腔組織構造の破綻を誘導し炎症性腸疾患(IBD)の発生に至る事を明らかとする」を達成する為、以下の解析を行う。1.IBDモデルマウスの腸組織の形態変化(傷害)が誘導される初期の段階において、aPKCの活性変化およびaPKC-PAR複合体の形成阻害が誘導されているか明らかとする。2.IBDの病態発生の初期過程において酸化ストレスによるフォスファチジルセリン(PS)の過酸化物が産生されているか検討する。また、aPKC活性化作用について検討する。3.IBD患者において過酸化PSおよびaPKC活性変化が生じているか解明する。本年度は、酸化ストレス障害モデルラット(四塩化炭素による肝傷害モデル)を作成しaPKCの活性変化およびaPKC-Par複合体形成に対する作用について検討を加えた。その結果、酸化ストレス障害モデルラット肝臓においてaPKCの過剰な活性化を認めた。この時、aPKC-Par複合体形成が抑制されていた。aPKCは、PSにより活性化されるが、肝組織では過酸化脂質を検出しておりグリセロール骨格に不飽和脂肪酸を有するPSの過酸化物によるaPKCの活性化が予想された。そこで、PSの過酸化体の精製標品を作製に成功した。今後、aPKCに対する作用をin vitroにて検討すると共に、IBDモデルマウスの腸管組織および肝傷害モデルマウス肝組織中に過酸化PSが含まれるか質量分析装置を用いて精査する予定である。
3: やや遅れている
これまでの解析から以下の点が明らかとなった。①IBDモデルマウスの消化管上皮細胞においてaPKCおよびPar-3のタイトジャンクションの局在化が失われた。また、aPKC活性化の指標となるリン酸化が免疫組織化学的手法を用いた解析から明らかとなった。②酸化ストレス障害モデルラット(四塩化炭素による肝傷害モデル)を作成しaPKCの活性変化およびaPKC-Par複合体形成に対する作用について検討を加えた。その結果、酸化ストレス障害モデルラット肝臓においてもaPKCの過剰な活性化を認めた。さらに、aPKC-Par複合体の形成が抑制されていた。③酸化ストレスを培養上皮細胞に与えたところ細胞極性の異常が誘導されること、また、aPKCの異常活性化が誘導されることが分かった。この変化は、aPKCの活性阻害剤処理により抑制される傾向が確認された。③フォスファチジルセリン(PS)の過酸化物の精製標品を作成することができた。これらの結果より、酸化ストレスにより肝障害時に観察される細胞極性の異常が他の臓器(細胞)においても惹起されること事が明らかとなった。酸化ストレスによる細胞障害の新たなシグナル伝達経路として「酸化ストレス→aPKCの異常活性化→aPKC-Par複合体の減少→細胞極性の異常→細胞(組織)障害」というシグナル系の存在が示唆された。
PSの過酸化体の精製標品を用いて、in vitroにてaPKCの活性に対する作用を検討する。また、直接、培養上皮細胞にPS過酸化体を処理し細胞極性に対する作用を精査する。細胞増殖、細胞死についても検討を加える。aPKC-Par複合体に対する作用についても同様する。一方、酸化ストレスを加えた培養上皮細胞および動物モデルを使い障害細胞・組織中の過酸化PS量の変動について質量分析装置を使い検討する。これらの検討により酸化ストレスによる過酸化PSの発生が細胞障害の起点としてなりうるか明らかとする。
消耗品の購入時に発生した金額の消費税の差額分として生じた繰り越し額である。翌年度では繰り越し額を消耗品の購入に充てる。
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Biofactors
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