研究課題
C5a-C5a受容体系をターゲットにした治療法の試みC5a受容体を発現する乳癌細胞や腎癌細胞は、C5a共存により運動性が活発化し、浸潤・増殖能が亢進すること、さらに転移も促進することを株化癌細胞実験で明らかにし、C5aの受容体を介した直接的癌促進作用を示した。さらに、患者癌組織と臨床データを解析して、患者癌細胞のC5a受容体発現が癌病期の進行、リンパ節転移増加、患者生存率低下と有意に相関することを、乳癌、尿上皮癌で突き止めた。癌病巣では補体系活性化や癌プロテアーゼによってC5aが産生されることが報告されている。そこで、内因性C5aによる癌細胞への作用を調べるために、マウス腎癌細胞Rencaを同系統マウスに接種し、接種部に免疫複合体による補体系活性化を介したC5a産生を誘導した。コントロール細胞に比較してC5a受容体発現Renca細胞の方が腫瘤径で7日目は1.4倍、14日目では1.6倍大きくなった。また、癌接種部皮膚組織標本を抗CD11b抗体と抗Ly6g抗体が共に陽性の骨髄由来抑制細胞(MDSC)の浸潤も有意に数が増加していた。以上より、C5aは数日の培養での癌増殖促進作用は観察されていないが、C5a-C5aR系が潜在的に癌増殖亢進作用をもち、C5aがCD8+ T細胞の抗腫瘍反応を抑制するMDSC細胞を動員し間接的に癌を促進することが解った。次の段階として、マウスC5a受容体発現Renca細胞とmock細胞をマウス腎臓被膜下に接種し、腫瘍成長、転移を比較して癌病巣で産生されるC5aの効果を調べ、C5a-C5a受容体系がマウスでも癌促進作用があることを確認する。さらに、このモデルを使って、C5a受容体拮抗剤や特異抗体の癌抑制効果を検討する計画である。これらの研究成果を通して、C5a-C5a受容体系が癌治療の標的として有用であることを提示する。
3: やや遅れている
C5a受容体を発現しないRenca細胞にマウスC5a受容体遺伝子を導入したRenca/C5aRにマイコプラズマ感染がわかり、除菌に時間を要した。しかも、Renca/C5aRの培養液中にはC5aR非発現細胞が出現しており、細胞分離装置を使ってC5a受容体発現細胞のみを分離し、実験に必要な数を確保するにも時間がかかった。Renca細胞は腎癌由来なので腎被膜下に除菌したRence/C5aRを接種して転移を調べたが、実験技術的に困難で一定の結果を得られなかった。そこで、皮膚に接種し同時に内因性C5a産生を誘導して影響を解析したところ、上記のようにC5a受容体依存性に浸潤と腫瘍形成亢進作用が引き起こされた。さらに、抗腫瘍反応を抑制するMDSCの浸潤を調べて癌微小環境も癌促進性に形成されていることが明らかになった。しかし、これらは2年度までの計画なので、最終年度計画の研究には至っておらず、研究達成にはやや遅れている段階にある。
C5a-C5a受容体系をターゲットにした治療法の試み最終年度に計画していたRence/C5aRとRenca/mock細胞をマウスに接種し、C5a受容体発現癌細胞が非発現のコントロール細胞より進展することをマウスの系で示し、癌病巣で産生されるC5aの癌促進作用を明らかにする。Renca細胞をマウス腎被膜に移植する系が実施困難であれば、皮内接種の系に変更する。この系にC5a受容体拮抗剤や抗C5a受容体抗体投与の腫瘤形成、浸潤、MDSC細胞集積、腫瘍血管増生、リンパ節転移等を調べて両細胞間で比較し、癌促進抑制効果を解析する。これにより、C5a-C5a受容体系が癌治療のターゲットとして有用であることを示す。
理由:癌細胞接種実験に使用するRenca/C5aRの確保に時間を要し、マウスを使用する実験が計画通りに行えなかった。それで、癌細胞をトレースするための標識蛍光プローブやマウス購入・飼育費用が今年度に必要となった。また、今年度はC5a-C5a受容体系を遮断するマウス実験に用いる大量のC5a受容体拮抗剤や抗C5a受容体抗体が必要である。これらの事情で次年度使用額が生じた。繰り越し金額を次年度施行予定の動物実験と試薬購入に必要な金額の増額に充てる。使用計画:次年度は動物実験のためのマウス購入費、飼育費、および培養関連試薬、細胞標識蛍光プローブ、抗C5a受容体抗体、C5a受容体拮抗剤などの実験試薬の購入、およびマウス組織標本作成と免疫組織染色に必要な人件費に、繰り越し金額の研究費を充てる。また、論文の英文校正、投稿したジャーナルから指示された論文のreviseに必要な実験の費用に使用する。
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