研究課題
研究代表者らはこれまでに、自然免疫の応答時に発現が誘導される転写調節因子であるIkappaBzetaを同定し(Yamazaki et al 2001 J. Biol. Chem.)、この因子が、自然免疫における遺伝子発現調節に重要であることを明らかにしてきた(Yamamoto et al. 2004 Nature; Yamazaki et al. 2005 J. Biol. Chem.; Motoyama et al. 2005 J. Biol. Chem.; Yamazaki et al. 2008 J. Biol. Chem.など)。最近、IkappaBzetaが自然免疫系だけでなく、獲得免疫系においても重要な役割を果たすことが明らかになりつつあり、特に、細胞外病原体に対する防御応答や自己免疫疾患の発症に関与するTh17細胞の分化に必要であることが判明し、注目を集めている。研究代表者は、IkappaBzetaと結合するタンパク質の網羅的な検索により、転写因子JunBを同定し、IkappaBzetaとJunBによる遺伝子発現調節の解明を進めている。今年度は、JunBがTh17細胞の分化に関与する可能性を検討した。JunBはヘルパーT細胞のサブセットの中で、Th17細胞において最も高く発現しており、JunBの欠損マウス由来のナイーブCD4陽性細胞はin vitroの分化誘導系においてTh17細胞への分化能を失っていた。また、JunB欠損マウスは、Th17細胞を主要な責任細胞とする実験的自己免疫性脳脊髄炎モデル (experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE) を一例も発症しなかったことから、JunBがTh17細胞の分化に必須であることが明らかになった。以上の成果を論文としてまとめ、発表した (Yamazaki et al. 2017 Sci. Rep.)。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者は、IkappaBzetaに結合する分子としてJunBを同定した。最近IkappaBzetaが、Th17細胞の分化に必要であることが示されたことや、JunBがTh17細胞で強く発現していたことから、JunBがTh17細胞の分化に関与する可能性を検討した。まず、IL-6とTGF-betaの存在下に、抗原刺激によってTCRを活性化することによりin vitroでTh17細胞への分化を誘導する系による解析をおこなったところ、JunB欠損マウス由来のナイーブCD4陽性細胞はTh17への分化能をほぼ完全に失っていた。また、RNA-seq法などによる遺伝子発現解析の結果、JunBを欠損したCD4陽性T細胞は、Th17細胞に特異的な一群の遺伝子の発現が障害されていた。一方、JunBの欠損により、ヘルパーT細胞の他のサブセットであるTh1細胞、Th2細胞、制御性T細胞 (Treg細胞)への分化には影響が認められなかった。また、Th17細胞が主要な責任細胞としてはたらく病態モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導してもJunBの欠損マウスでは一例も臨床スコアの上昇が認められなかったことから、JunBがTh17細胞の分化に必須であることがin vivoでも明らかになった。 JunBは、c-Jun、JunDと共にJunタンパク質ファミリーの一員であり、個体発生などにおいてはこれらが重複した役割を担っているが、Th17細胞の分化においては、JunBの発現が、他のJunファミリータンパク質であるc-JunやJunDと比較して有意に高いことや、JunBだけがTh17細胞の分化に必要であることが示されているBATFと協調してTh17関連遺伝子の転写を活性化できることが明らかになった。
本研究課題におけるこれまでの解析により、JunBがTh17細胞の分化に必須であることが明らかになった。一方、当初IkappaBzetaが重要であることが示された自然免疫系での遺伝子発現調節におけるJunBの役割については不明な点が多い。今後は、JunB欠損マウス由来のマクロファージや樹状細胞を用いて、Toll-like receptorのリガンドとなる病原微生物由来の物質による遺伝子発現プログラムの変化にJunBがどのように関与するかを明らかにする。また、IkappaBzetaの欠損細胞で見られた表現型がJunBの欠損や過剰発現によりどのような影響を受けるかを検討する。さらに、IkappaBzetaとJunBの二重欠損マウスを用いた解析も実施し、遺伝子発現調節におけるこの二者の因子の協調作用も明らかにする。また、EAEの病態モデルの発症にJunBが必須であることが明らかになったが、他の病態におけるJunBの役割は明らかではない。そこで、JunB欠損マウスに対して炎症性の病態を中心とした種々の病態モデルを誘導し、表現型を解析する。これまではJunBの役割に関して主にin vitroの解析を実施してきたので、種々の病態モデルにおいてJunBがin vivoでは他のサブセットのヘルパーT細胞の機能を調節する可能性についても検討する。
次年度使用額が生じた理由:試薬の使用量を節約できることが判明したり、当初の予定になかったキャンペーンを利用することにより、支出を減らすことができたため。次年度の使用計画:当初予定していた方法で期待通りの成果が得られなかった場合、それに代わる方法を試みるための費用に充てる。また、マウスの個体を用いた実験などで、より高い精度や有意差の結果を得るための個体の購入に充てる。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 17402
10.1038/s41598-017-17597-3
臨床免疫・アレルギー科
巻: 68 ページ: 455-462