研究実績の概要 |
我々は、IκBζに結合する因子として転写因子JunBを同定した。これまでにJunBは胎盤形成や骨形成に重要であることが知られていたが、免疫細胞における役割はほとんど不明であった。ヘルパーT細胞のサブセットの一つであり、種々の炎症性疾患に関与するTh17細胞の分化においてIκBζが重要な役割を果たすことが知られていたため、我々はCD4陽性細胞特異的にJunBを欠損するマウスを作成し、その解析をおこなった。JunB欠損マウスから調製したナイーブCD4陽性細胞をin vitroで各ヘルパーT細胞サブセットに分化誘導したところ、Th17細胞への分化が抑制されていることが判明した。また、このマウスに、Th17細胞が主要な責任細胞としてはたらく実験的自己免疫性脳脊髄炎モデル (experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)を誘導したところ、一例も発症しなかったことから、JunBはTh17細胞の分化に必須であることが明らかになった。また、CD4陽性細胞特異的JunB欠損マウスは、CD3に対するアゴニスト抗体を投与して誘導される小腸炎モデルにおいても病態の軽減が認められたことから、T細胞依存的に誘導される炎症性疾患の発症に必要であると考えられた。一方、自然免疫系が主導で誘導される炎症モデルにおけるJunBの役割は不明であったため、次に我々はデキストラン硫酸ナトリウム (Dextran sulfate sodium, DSS) の投与によって誘導される大腸炎モデルを実施したところ、CD4陽性細胞特異的JunB欠損マウスでは予想に反して病態の増悪が認められた。このマウスの大腸組織全体では、腸炎に対して防御的にはたらくTh17サイトカインの発現が低下していなかったため、他のヘルパーT細胞について詳細に検討したところ、制御性T (Treg) 細胞の数が減少してた。さらに我々は、JunBがIL-2シグナルを介してTreg細胞の分化を調節することを見出している。
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