研究課題
我々は、腫瘍内浸潤MDSCを抑制することが腫瘍免疫誘導に重要であることを明らかとしているが、MDSCは不均一な細胞集団であり、どのような亜集団が腫瘍内に浸潤して免疫抑制機能を発揮しているかは明らかでない。そこで、腫瘍内に浸潤したMDSCの分子細胞的特徴を解析するために、Lewis Lung carcinomaマウス肺がん移植腫瘍モデルから、脾臓と腫瘍部を採取して細切しシングルセル化した。ついで、フローサイトメトリー(FACSAria; Becton Dickinson)により、CD11b+Gr-1+のMDSC細胞分画からLy6GhighLy6Clowである顆粒球系MDSCとLy6G-Ly6Chighである単球系MDSCを分取し、10xGenomics社Chromiumを用いて単一細胞に分離した後、次世代シークエンサーを用いてRNA-Seq解析を行った。それぞれの細胞の発現プロファイルのheatmap及び主成分解析によりMDSC細胞のクラスタリングを行い、特徴的な遺伝子発現を検討とした。このシングルセル解析により、まず、腫瘍内に浸潤するMDSCとしては、顆粒球系MDSCが多いこと、さらに、脾臓のMDSCと比較して腫瘍浸潤MDSCに特徴的な亜集団を同定し、その特徴的な遺伝子発現を明らかとすることができた。また、MDSCは、腫瘍組織が発現するケモカインに反応して、腫瘍内に浸潤すると考えられる。脾臓のMDSCと比較することにより、腫瘍側のケモカインとMDSCのケモカインレセプターのある特定の組み合わせを使って腫瘍内に浸潤している可能性を示すことができた。腫瘍内浸潤MDSCの免疫抑制機序について検討した。
2: おおむね順調に進展している
マウス皮下腫瘍モデルの腫瘍部と脾臓から、顆粒球系MDSCと単球系MDSCを分離し単一細胞レベルで発現解析を行った。その解析結果から、腫瘍内MDSCに特徴的な遺伝子発現やホーミング機序・免疫抑制機序を示唆することができ、概ね予定通り研究は進捗した。
1.まず、CT26大腸がんモデルを用いて同様にシングルセル解析を行い、腫瘍内に浸潤するMDSCのがん種による相違を明らかとする。特に、特徴的な遺伝子発現プロファイルや、腫瘍内ホーミング機序および免疫抑制機序の違いを明らかとする。2.ついで、がん細胞・がん関連線維芽細胞による腫瘍内へのMDSCホーミング機序を明らかとする。特に腫瘍組織内のがん細胞やがん間質線維芽細胞に着目し、それらのMDSCホーミング機序を検討する。具体的には、5種のヒトがん細胞株や11種類のがん間質繊維芽細胞(CAF)株と正常組織繊維芽細胞株(NF)と、我々がヒト末梢血単核細胞(PBMC)よりIL-6とGM-CSFを用いて誘導した誘導MDSC(iMDSC)を用いて以下の研究を行う。(1) CAFによるMDSCホーミング機序の解明: 腫瘍内MDSCに特徴的に発現しているケモカインレセプターに着目して、がん細胞やCAFがそれに対するケモカインを分泌するか検討する。さらに、ケモカインとレセプター系を介してがん細胞やCAFがiMDSCの浸潤能や運動性に影響を及ぼしてしているか、in vitroでの共培養により検討する。(2) CXCL6を介した機序の検討:我々は、CAFではp53遺伝子の発現が低下することによってCXCL6の分泌が亢進していることを見出している。このCXCL6がMDSCに発現するレセプターCXCR2に作用して、腫瘍内にMDSCをホーミングさせているかについて検討する。3.ついで、国立がん研究センターの保有する大腸がん・肺がん等外科切除バイオバンク試料を用いて、CAFのp53遺伝子異常とCXCL6発現や、がん組織内へのMDSCを含めた各種免疫細胞の浸潤との関連を病理組織学的に解析し、CXCL6を介したCAFとMDSCの相互作用を大規模検体で確認する。
本年度研究はほぼ予定通り進捗したが、腫瘍内MDSCの免疫抑制活性を検討するためにPD-L1の発現を検討する必要がある。H29年度にMDSCを分離して、PD-L1の発現状態を検討する予定である。
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10.1158/2326-6066.CIR-15-0298