研究課題
薬剤耐性マラリア原虫の出現と拡散は、緊急に対処すべき重要課題である。抗マラリア薬の1つ、クロロキン(CQ)に対する耐性の出現と拡散に伴うCQの使用中止の数年後に生じたCQの感受性回復という疫学的事象は、薬剤を使用していない環境下では、耐性個体は感受性個体よりも適応度が低く、感受性個体との生存競争に不利となることを示唆している。この性質を利用すれば、定期的に使用薬剤を変更することで耐性の出現・拡散を抑えることができ、現存する薬剤の循環使用のみで持続的なマラリア治療が可能となりうる。本研究では、その他の抗マラリア薬でも同様の事象が起こるかどうかをこれまでに研究例のほとんどないマラリア原虫の全生活環において検証することを目的に、マウス-蚊-マラリア原虫の系を用いた研究を行なっている。本年度は蛍光タンパク質発現薬剤耐性化マウスマラリア原虫の作製を実施した。薬剤耐性および感受性マラリア原虫の違いを簡易的に検出するために緑色蛍光タンパク質GFPおよび赤色蛍光タンパク質mCherryの導入を試み、共に成功した。現在それら蛍光タンパク質発現マラリア原虫を薬剤耐性化させるため、耐性に関与する遺伝子変異を導入中であり、近く完了する予定である。また、マラリア原虫の感染血液を蚊に人工的に吸血させる系を確立した。これにより、薬剤耐性および感受性マラリア原虫を任意の比率で混合して蚊に感染させ、蚊体内での種内競争を可視化して観測することが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
計画で予定していた遺伝子変異の導入および、蚊への感染系の確立を完了したため。
当初の計画どおり、作製した薬剤耐性マラリア原虫の蚊およびマウス体内における適応度(感染赤血球率の経時変化、増殖速度、ガメトサイト[蚊移行期のマラリア原虫]出現までの期間とガメトサイト/感染赤血球比率)を、薬剤投与/非投与群において測定する。
研究の進展上、物品調達、旅行、および論文投稿を次年度に行う予定となったため。
計画に沿い、試薬類および実験動物の購入に研究費の大半を充て、残りを論文作成・学会発表など成果報告のために使用する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Malaria Journal
巻: 16 ページ: 23
10.1186/s12936-016-1663-1