研究課題/領域番号 |
16K08767
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
冨田 隆史 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 主任研究官 (20180169)
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研究分担者 |
葛西 真治 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 主任研究官 (80332360)
駒形 修 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 主任研究官 (20435712)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 殺虫剤抵抗性機構 / シトクロムP450 / ゲノム編集 / 遺伝子ノックアウト / ネッタイシマカ |
研究実績の概要 |
ネッタイシマカのピレスロイド代謝抵抗性機構に含まれるシトクロムP450(CYPと略)分子種と抵抗性に関連付けられる遺伝子変異を明らかにする目的で研究を行っている。 ピレスロイド抵抗性系統SPSにおける第一染色体上のピレスロイド高排泄因子は,2018年に更新された本種のVectorBase(VB)データベースに照合すると,5つのCYP遺伝子(ゲノム配列上での並び順:CYP5BB1, CYP6AA1, AAEL026582, CYP6P12, CYP6CC1)を含む1つの遺伝子クラスターに符合することが示された。2018年度には,これらの遺伝子につき,Sanger法ならびにNanoporeシークエンシングにより,殺虫剤感受性系統とピレスロイド抵抗性系統SPSの間で遺伝子構造とコード配列の変異を解析した。 その結果,SPS系統では,CYP6AA1とAAEL026582に遺伝子重複が生じていることがわかった。AAEL026582に関しては,コード領域を含む周辺配列の約50 kbが順方向に縦列重複していること,重複した遺伝子の一方には1つの非同義置換変異(S101N)があること,並びに,重複単位の継ぎ目にあたる3 kb超の塩基配列を確認した。誤った注釈付けに従って現在1つの遺伝子座として標記されているCYP6P12は,実際には非常に短い間介在配列で区切られる2つのCYP遺伝子の縦列から成り,この内のAAEL026582座位に近位のCYP遺伝子に関しては,解析した両系統において,2.4 kb余りの挿入があり,かつ転写産物に基づくcDNA増幅が困難なことから,偽遺伝子化している可能性が示された。 以上の2018年度の実績から,ゲノム編集に基づくノックアウト(KO)体作出により次年度に抵抗性への関与を検証すべきCYP遺伝子候補が定まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ピレスロイド抵抗性系統SPSにおいて「ピレスロイド高排泄因子に遺伝学的に密接に連関しており,かつ,転写レベルで高い系統間比(抵抗性/感受性)を示すCYP遺伝子」のリストに基づき,2016-7年度には,第一染色体上右腕の2つのCYP遺伝子(CYP5AA1とCYP6BB5)をそれぞれKO体作出の対象として研究を進め,CYP6BB5がピレスロイド代謝抵抗性の一部を担うことを示した。しかしながら,2018年に更新された本種のVBゲノム情報に基づき,これら2遺伝子は,これまで着目してこなかった他のCYP遺伝子(AAEL026582, CYP6P12, CYP6CC1)と共に1つのCYP遺伝子クラスターを形成しているという新知見を得た。そこで,2018年度の研究として,このCYP遺伝子クラスターに含まれる各遺伝子の構造変異を解析した。その結果,SPS系統におけるAAEL026582の遺伝子重複,SPSと殺虫剤感受性系統において実際には2つの遺伝子の縦列から成るCYP6P12の一方は偽遺伝子化している可能性があることを確認した。2018年度の解析結果をふまえ,2019年度は,研究開始時にはゲノム情報の不完全さにより見過ごされていたCYP遺伝子クラスター内のその他の遺伝子も対象にして,第一染色体上のピレスロイド代謝抵抗性要因を精査する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ピレスロイド抵抗性SPS系統における第一染色体上右腕のCYP遺伝子クラスターに含まれる5つの遺伝子(上述)につき,感受性系統と対比した発現量プロファイルを定量PCRにより得る。すでに遺伝子重複を生じ過剰発現が確認されているAAEL026582,その他にも抵抗性系統特異的な高発現性を示すCYP遺伝子について,単独遺伝子KO体(ただし前年度までに実施済みのCYP5BB1, CYP6AA1は除く)または多重遺伝子KO体の作出を試み,遺伝子KOによる殺虫剤感受性低下の効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度補助事業期間延長を行ったため。 2019年度では,転写量測定,KO体作出のためのマイクロインジェクション,論文投稿などに使用する予定である。
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