研究課題
細菌感染症に対する治療は、抗菌薬によるものが主である。しかし、昨今、世界的に多くの薬剤耐性菌が蔓延しており、難治性の重症化に至る傾向が認められる。また、これら抗菌薬の使用が更なる耐性菌の出現を助長することが危惧されている。毎年、約3千人の感染者が見られる、O157型 に代表される腸管出血性大腸菌(EHEC)は、経口感染により腸管に達し、定着・増殖に伴う毒素(志賀毒素、サブチラーゼ毒素等)産生により、急性の下痢症を惹起する。腹痛、血性下痢を伴う出血性腸炎を引き起こし、重症化した場合には、溶血性尿毒症症候群(HUS)、脳症等の病態を引き起こす。小児や老人が重症化した場合には死に至るケースも多く認められる。最近は、非典型的なLEE-negative EHEC (O157型以外)感染による重症化例が世界的に増加傾向にある。このLEE-negative EHECは2型志賀毒素に加え、小胞体ストレス誘導毒素 Subtilase cytotoxin (SubAB) を産生する。SubABは、細胞内に侵入後、シャペロンタンパク質である GRP78/BiP を特異的に切断することで、小胞体ストレスセンサータンパク質PERKを活性化し、アポトーシスを誘導する。また、マウス腹腔への投与は、著明な腸管出血による致死に至る。これまで、SubABの細胞傷害機構に、ミトコンドリアを介したカスパーゼの活性化、DAP1タンパク質の関与を明らかにしている。また、細菌毒素では初めて、ストレスグラニュール形成をPKCの抑制により誘導することを明らかにしている。本年度は、昨年度見出した SubAB 細胞傷害を抑制する PKC 活性化剤,ステロイド剤の阻害作用機序を詳細に解析した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ドラッグリポジショニングによる新たな治療法を目指し、既に臨床利用或いはトライアル中の薬剤を用いて、SubABの毒性阻害薬を見出すことを目的とした。その結果、ステロイド剤、PKC活性化剤(Bryostatin I,Ingenol-3-angelate)にSubABの細胞傷害性を阻害することを見出した。ステロイド剤の抗毒性は、宿主細胞のステロイド受容体を介した抗アポトーシスタンパク質 Bcl-xL の発現誘導によるものであることが明らかとなった。しかし、2型志賀毒素(Stx2)を共添加した場合には、細胞傷害性を阻害できなかった。一方、PKC活性化剤は、初期の細胞死を抑制することはできたが、長時間の添加では薬剤の細胞傷害性が認められた。Stx2の共添加でも、初期において細胞死を抑制することができた。次に、マウスにおいて抗毒性を評価するため、まず、マウス腸管オルガノイドを作成した。本手法は、動物愛護の点からも非常に有効な手法である。蛍光ラベルしたSubABを腸管オルガノイドに添加した所、頭頂部に非常に良く結合していた。ステロイド、PKC活性化剤を共添加して、SubABの細胞傷害性を評価したところ、予期しないことに、これらの薬剤は全くSubABの活性を阻害しなかった。これは、マウスとヒトの薬剤に対する感受性の違いによるものと推察された。以上の結果は、Cell Death Dicovery に受理・掲載された。
今回見出した、PKC 活性化剤のSubAB の細胞傷害阻害機構は不明であることから、このシグナル伝達機構がどのように毒素の細胞障害阻止に機能しているか、マイクロアレイ解析、細胞内のリン酸化タンパク質の変化、マス解析により明らかにする。この細胞傷害阻止に寄与する標的分子が明らかになった場合、過剰発現、或いはノックダウン細胞を作製し、詳細な阻害機構メカニズム、分子機能を明らかにする。更に、薬剤存在下、野生型 LEE-negative EHECや、SubAB 欠失株の菌体の培養上清、あるいは菌体を細胞に添加し、細胞障害阻害活性を評価する。本実験により、毒素に加え、菌の持つ他の病原因子(エフェクター、LPS等)の影響が明確となり、実際の感染の場に似た環境での薬剤の効果を評価できると考える。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Cell Death Discovery
巻: 4 ページ: 1-17
10.1038/s41420-017-0007-4
Toxicological Science
巻: 156 ページ: 455-468
10.1093/toxsci/kfx009
Chemistry Letter
巻: 46 ページ: 594-596
10.1246/cl.161198
MicrobiologyOpen
巻: 6 ページ: 1-17
10.1002/mbo3.461
http://www.chiba-bacteria.jp