細菌に広く保存されているトキシン・アンチトキシン(TA)システムは、細胞死、ストレス応答、病原性因子発現制御、薬剤抵抗性であるパーシスター形成に置いて注目されている機構である。黄色ブドウ球菌の機能未知遺伝子群から、新規なTAシステムを見出しており、本研究では、新規TAシステムの機能及び生理的な役割の解明を行うことを目的とした。 最終年度である当該年度において、黄色ブドウ球菌におけるトキシン・アンチトキシンシステムの生物学的な役割を明らかにするために遺伝子過剰発現株を作製し、薬剤感受性、病原性因子の産生及び遺伝子発現の解析したが、明確な生理的な役割を見出すには至っていない。さらに、遺伝子欠損株のRNA Seq解析によるトキシンの生理的な役割の解明に向けて、継続的に取り組んでいる。本研究期間全体を通して、1)新規TAシステムのトキシンが、DNAトポイソメラーゼの一種であるDNAジャイレースを阻害することで細胞死を誘導する。さらにDNA・DNAジャイレース・トキシンの三者複合体の形成及びDNAジャイレースによる一度DNAを切断した後に再結合する反応を阻害していることが推測された。2)50アミノ酸から成る新規トキシンの活性に重要なアミノ酸として、新規トキシンの27番目のグルタミン酸と37番目のアスパラギン酸残基がDNAジャイレース阻害活性に重要であることを明らかにした。3)新規トキシンの構造に関して、放射光真空紫外円二色性分光法により新規トキシンは溶液中で22番目から32番目のアミノ酸残基の領域でアルファヘリックス構造を形成していることを明らかにした。4)当初予定していた黄色ブドウ球菌における生理的な役割の解明には至らなかったが、今後、本研究で得られた研究成果を元に、国際共同研究強化(A)にて、黄色ブドウ球菌のトキシン・アンチトキシンを利用した新規抗菌薬開発への発展的な研究を行う。
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