大腸菌の抗原性が変化するメカニズムの解明を目指した。系統的に近縁であるにも関わらず異なる血清型を示す菌株を集取して全ゲノムを決定し、OまたはH抗原の合成に関わる遺伝子領域の配列比較を行なった。その結果、いずれの領域においても抗原コード領域だけではなく、その周辺領域を含む大きな染色体領域が組み換わっていることが明らかとなった。つまり、大腸菌抗原の多様化と変換のメカニズムは異なる可能性が示唆された。次に糖鎖抗原の機能性について評価した。7種類の大腸菌O血清群参考株(O25、O26、O56、O61、O83、O127、O157)からLPSを精製し、TNF-α産生誘導能を測定した。Westphalらのフェノール抽出法に従って菌体からLPSを抽出し、各種分解酵素処理や限外ろ過により夾雑物を除去してLPSを精製した。精製LPSはLimulus試験によりエンドトキシン量(EU)を測定し、各LPS試料はEUに基づいて濃度調整した。マクロファージ様RAW264.7細胞に精製LPSを加えて37℃で3時間培養後、培養上精を回収し、L929細胞を用いたbioassayによりTNF-αを測定した。陽性コントロールには大腸菌O127由来LPS(Wako)を用いた。試験は独立して3回実施した。その結果、他のO血清群と比べてO83のTNF-α産生誘導能は有意に高く、一方でO157は有意に低いことが明らかとなった。また、糖鎖にノイラミ酸を含むO56では有意な差は見られなかった。以上の結果より、同じ大腸菌由来であってもO抗原糖鎖の種類が異なれば免疫細胞の反応性が異なることが示された。
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