研究課題/領域番号 |
16K08784
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
松井 英則 北里大学, 感染制御科学府, 講師 (30219373)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘリコバクター・ハイルマニイ / 比較ゲノム解析 / エフェクター / ELISA / 診断技術 / 不飽和脂肪酸 / メナキノン / プロバイオティクス |
研究実績の概要 |
広義のヘリコバクター・ハイルマニイは、H. pylori以外でヒトの胃に感染の可能性のあるH. heilmannii sensu stricto, H. suis, H. bizzozeronnii, H. feli, H. salmonisなどの総称と定義する。患者で見つかるのは主にH. suisである。鳥肌胃炎の患者から分離した難培養性のHelicobacter suis SNTW101株の全ゲノム解析の結果をGenome Announcement誌で発表した。比較ゲノム解析で得られたH. suis特異的蛋白質のエピトープ部位を計算し、15本のペプチドを合成した。更に、それらの抗体を作製した。同様に5本のH. pylori特異的ペプチドとそれらの抗体を作製した。このH. suis特異的蛋白質由来のペプチドは、H. suis感染患者血清のみと反応し、H. pylori感染患者血清とは反応しなかった。 H. pyloriの除菌は、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬と抗菌剤2種類の内服が保険適用となっている。しかし耐性菌の出現や、副作用が問題である。副作用の主な原因は、広域スペクトルを持つ抗菌剤の大量投与による腸内細菌叢の変化と考えられる。また、H. suisの除菌については、まだ明らかにされていない。細菌の電子伝達系の補酵素であるメナキノン(MK,ビタミンK2)は、菌の生育に必須であり、抗菌剤の新たな標的として注目を集めている。当該研究において、ω3不飽和脂肪酸のHelicobacter属に特異的なMK生合成経路(futalosine経路と命名)に対する阻害活性を報告した。更にリノール酸に乳酸菌を作用させることにより作られる水酸化脂肪酸のH. pyloriとH. suisのfutalosine経路に対する強力な阻害活性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1. ヘリコバクター・ハイルマニイ特異的抗原の検索 H. suis特異的な抗原として機能する可能性のペプチドをデザインした。合成したペプチドを抗原とし、感染マウス血清を用いたELISAにより、実際に特異的に反応するペプチドを選択した。平成28年度の計画では、ここまでであったが、更にH. pyloriあるいはH. suis患者血清を用いたELISAにより、選定したペプチドがH. suis感染患者血清と特異的に反応することを確認した。当該研究の成果は、ウレアーゼ活性が弱いため呼気試験で陰性が多いH. suis感染者の診断法の開発に繋がるものである。 2. 狭域スペクトルの抗ヘリコバクター剤の開発 ω3不飽和脂肪酸のHelicobacter属特異的なMK生合成経路(futalosine経路と命名)に対する阻害活性を論文で報告した。新たにリノール酸に乳酸菌を作用させることにより作られる水酸化脂肪酸のH. pyloriとH. suisのfutalosine経路に対する強力な阻害活性を明らかにし、特許を出願した。更に、平成29年以降に予定していた、futalosine経路阻害剤の摂取による、胃MALT(Mucosa Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫の発症予防効果も明らかにした。ω3不飽和脂肪酸および水酸化脂肪酸のfutalosine経路の阻害機構の詳細については、平成29年度以降に持ち越した。
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今後の研究の推進方策 |
1. ヘリコバクター・ハイルマニイ感染診断キットの開発 平成29年度以降に以下の開発を目指す。(1)胃生検体から調製したDNA中に含まれる菌体DNAを標的とした遺伝子診断キット(除菌前後の検査)。(2)菌体に対する抗体価を標的とした診断キット(除菌前の検査)。(3)便中の菌体を指標とした診断キット(除菌後の検査)。マウスの感染および非感染の血液、尿、便、胃粘膜などを材料として診断キットの有効性を確認する。更に、ヒトの検体で診断キットの実用化に向けて検証する。 2. 狭域スペクトルの抗ヘリコバクター剤による胃MALTリンパ腫発症抑制効果の検証 水酸化脂肪酸を飲料水に混ぜて毎日投与することで、H. suis感染マウスの胃MALTリンパ腫の発症を抑制した。平成29年度は、(1)ω3不飽和脂肪酸と水酸化脂肪酸以外のfutalosine経路阻害剤の検索。(2)それらの阻害機構の詳細な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り使用したが、3月末の支払いの振込手数料が不要となったため360円を翌年に繰越した。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)難培養性のH. suis 2株の継代のためのマウスの購入費と飼育管理費。(2)ヘリコバクターの感染実験の際の組織化学・病理解析に係わる費用。(3)論文発表ための英文校正費および投稿料。(4)第23回日本ヘリコバクター学会学術集会(函館)・第91回日本細菌学会総会(福岡)での発表および他の研究集会への参加のための旅費。(5)PCR関連のプラスチック容器および酵素などの試薬類の購入費。(6)ELISA関連のペプチド合成費、抗体作製費、および二次抗体などの購入費。(7)ヘリコバクターの新規阻害剤の探索のための培地などの購入費。設備費および謝金は予定していない。
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