研究実績の概要 |
栄養枯渇などのシグナルにより細菌細胞内に(p)ppGppが蓄積すると、増殖を制御する遺伝子の他、ストレス耐性、Toxin-Anti Toxin系、さらに二次代謝産物の産生に関わる遺伝子の発現が調節される。 本課題では、ピロリ菌の(p)ppGppはSpoT欠損株を作成し、それを用いて病原性への関与について解析を行っている。本年度は、欠損株の病原因子等の発現をタンパク質レベルで、ピロリ菌の臨床分離株であるTK1402等の (p)ppGpp欠損変異株を用いて定着に関連する遺伝子の発現およびCagAおよび鞭毛タンパク質の発現を特異抗体を用いてイムノブロッティングで解析した。 ピロリ菌の主要な病原遺伝子であるCagAおよび定着やバイオフィルム形成への関与が報告されているnapA、oipA、alpB遺伝子およびcagAのmRNA量を野生株と比較したが、違いはなかった。さらにCagAタンパク質量についても同様に違いは見られなかった。これはcagAおよび定着への関与が方向されているnapAの転写が(p)ppGpp欠損により低下したというSunら(L. Cell Biochem, 2012, 113, 3393-3402)の結果と異なる。これは用いた株の違いによる可能性が考えられた。 一方、昨年度に得られた結果で運動能に違いが見られたことから、菌の鞭毛を構成するFlaAタンパク質量を測定したが、これについても違いが見られず、鞭毛形成以外、走化性などに違いがある可能性が考えられた。一方、(p)ppGpp合成欠損株のバイオフィルム形成時、増殖早期より非増殖形態であるCocooid formの形成が見られた。 以上の結果から、ピロリ菌の病原性発現過程で、(p)ppGppが運動性の制御およびCoccid formの形成を介して関与することが示唆された。
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