研究課題
グラム陰性菌の膜成分であるリポ多糖(LPS)は内毒素とも呼ばれ、敗血症の主要な病原因子である。一方、ヒトの好中球や上皮細胞から放出される生体防御ペプチドLL-37は、LPSと結合してこれを中和する。我々は、LPSと結合したLL-37が肝臓の類洞内皮細胞に速やかに取り込まれ、リソソームに移行することを報告している。このため、LL-37は血中に混入したLPSの除去剤として敗血症の治療に役立つ可能性がある。昨年度の研究成果として、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)にLL-37を作用させた際にオートファジーが活性化されることを見いだした。これにより、LL-37とLPSはオートファジーによって消化される可能性が示された。本年度は一つ目として、LL-37がオートファジーによって分解されるか調べた。まず、HUVEC培養系に添加したLL-37の挙動を調べたところ、LL-37は核周囲に局在し、さらに、一部はオートファゴソームマーカーLC3と共局在した。また、オートファジーの阻害剤やオートファジー必須遺伝子の発現抑制系を用いた結果、オートファジーを阻害した状況においてLL-37の分解が遅延した。二つ目として、オートファジー機能不全のHUVECにおいて、LL-37が細胞の生存にどのような影響を示すか検討した。その結果、オートファジーを阻害した細胞ではLL-37の添加によって生細胞が減少し、アポトーシス細胞が増加した。以上の結果、LL-37はヒト血管内皮細胞に作用してオートファジーを活性化し、自身の消化を促進することが明らかとなった。このことは、血中LPSの除去剤としてLL-37を用いた場合、LL-37はLPSと結合して類洞内皮細胞に取り込まれ、オートファジーによって分解される可能性を示す。一方、オートファジー機能不全に陥った血管内皮細胞に対して、LL-37は細胞死を誘導する可能性が示された。
3: やや遅れている
LL-37とLPSの取り込みにオートファジーが関わることが示唆されたため、当初の研究計画を若干修正して、LL-37によるオートファジーのメカニズムやその意義の解明に注力した。このためオートファジー必須遺伝子atg7のin vitroノックダウン系を確立して、解析した結果、LL-37の細胞内消化にオートファジーが関わることを明らかにすることができた。しかしながら、これらの研究に必須である血管内皮細胞用培養培地が世界的な品薄状態に陥り入手困難となったため、研究に遅れが生じた。このような理由により、LL-37の改変ペプチドを用いた機能解析などはやや遅れている。
今年度の成果として、LL-37はヒト血管内皮細胞に作用してオートファジーを活性化し、自身の細胞内消化を促進することを明らかにした。一方、オートファジー機能不全に陥った血管内皮細胞に対して、LL-37は細胞死を誘導する可能性が示された。今後は、LL-37によるオートファジー活性化のメカニズムについて、特にLL-37の細胞内局在に注目して明らかにする。さらに、オートファジー機能不全に陥った血管内皮細胞は何故、LL-37の暴露によって細胞死を起こすのかについても解明する。また、敗血症モデルマウスにLL-37を投与し、LPSのクリアランスの促進効果を明らかにするとともに、その際、オートファジーの活性化が関わるかどうかを調べる。
理由:オートファジーの関与を明らかにするin vitro系の研究に注力し、代わりに改変ペプチドを用いた機能ドメインの同定や動物を用いた実験を十分におこなうことができなかった。したがって、ペプチド合成や実験動物の購入費用が予定額に届かなかった。また、使用している血管内皮細胞培養培地が世界的に品薄状態となったため、培地の購入量が予定より減少した。使用計画:敗血症モデルマウスを用いてLL-37ペプチドのLPS除去作用を明らかにするため、実験動物の購入をする必要がある。また、血管内皮細胞培養培地の生産も元に戻りつつあるとのことである。
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