研究課題
我々は、糖ペプチド脂質抗原glycopeptidolipide (GPL) の欠失によりMycobacterium smegmatis J15cs株が細胞内で長期生存できることを分子レベルで解明・報告した。細胞内寄生性菌で重篤な呼吸器感染症MAC症の主要起因菌であるMAC菌は血清型特異GPLを発現している。本研究では、MAC菌の感染宿主内での長期生存、感染性・病原性の発揮がGPLの存否と連関していることを証明する。Mycobacterium smegmatis J15cs株と同様のGPLを欠失させたMAC菌の変異株を取得する試みを多方面から実施しているが、現在のところGPL欠失株は得られていない。取り組みとしてはM. avium 104株、臨床分離株M. intracellulare Ku11株を用いてmps1遺伝子破壊株の取得を実施した。非結核性抗酸菌は薬剤への自然耐性が出現しやすく、選択培地でのスクリーニングに手間取っているが、継続してmps1遺伝子の破壊株取得を行っている。並行してGPL合成に必須の遺伝子群の解析を進め、より効率的なGPL欠損株取得を目指した検討を行っている。Ku11株由来GPLは糖鎖構造が5糖 (Rha-2-O-methyl Rha-Rha-Rha-Rha-6-deoxy Tal) からなることを明らかにし、Ku11株のGPL構造、生合成遺伝子のクローニング解析を実施中である。現在、8個の糖鎖合成に関連すると考えられるorfを同定した。各orfの機能を解析するため、各orfをpVV16ベクターに導入して、糖鎖の最も少ない血清型1型MAC菌(NF113株)を組換えた変異株を作製し、その表現型から糖転移遺伝子を同定することを試みたが、GPL構造が変化した変異株の取得は出来ていない。そこで、迅速発育菌でGPLコアのみを産生するM. smegmatisを用いて各orf導入株を作製してその機能を解析した。Orf導入株の薄層クロマトグラフィー (TLC) の結果から、orf1, orf8が糖鎖の伸張に関与していることが明らかになった。当初の研究計画を実施するため、研究期間を次年度に延長して、GPLに制御された宿主応答の解明を完結する。
3: やや遅れている
GPL欠損株の取得をM. avium 104株、臨床分離株M. intracellulare Ku11株で実施しているが、現状スクリーニング手法、ベクターの改変に手間取り、GPL欠損株の作製が未完である。引き続き条件検討を行い、GPL欠損株の取得を試みる。並行して、他方面からのアプローチを実施している。Ku11株のGPL生合成遺伝子の完全解明を実施し、Ku11株に特化してGPL生合成遺伝子の解析を行い、GPL欠損株の取得に繋げる検討を行っている。そのため、本来申請時に提案した計画はやや遅れている。
本研究の最終目標は、MAC菌の感染宿主内での長期生存、感染性・病原性の発揮がGPLの存否と連関していることを証明することである。そのためには、GPL欠損MAC菌の取得が必要である。Ku11株に特化して変異株の取得に注力する。他方、GPL生合成遺伝子の解析について解明する。新たなベクター系pBUN279を使用することで、クローニングしたGPL生合成遺伝子群約20kbpをMAC菌に組み込むことが可能になると期待している。研究期間を延長して早期にGPL生合成遺伝子群の解析を行い、変異株を用いた形態変化、宿主応答機序の解析に着手する計画である。
(理由)現在までの進捗状況の項で述べたように、当初の計画からやや遅れてる。GPL欠損株取得を再度検討しているため、平成30年度に購入予定であった消耗品を次年度に繰り越す措置をした。(使用計画)平成30年度に計画していたGPL表現型の検討、宿主応答に必要な消耗品購入等は研究期間を延長して次年度に繰り越して利用する予定である。
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