研究課題
ヒトや動物の壊疽性腸炎の原因であるC型ウエルシュ菌β毒素の病原性発現機構の解明を行う。我々のグループでは、β毒素の受容体がP2X7受容体であることを報告した。本毒素は、細胞膜上のP2X7受容体に結合して、オリゴマーを形成しそのポアからの水分の流入により、細胞の膨化を誘導する。本研究では、P2X7受容体と細胞膜上で共役した状態で存在しATPの遊離に関与するPannexin1(Pan1)を介する病原性発現機構の分子メカニズムを解明した。本年度は、β毒素がPan1を介して細胞障害を与える機構を明らかにした。β毒素の作用におけるPan1の影響を検討するため、Pan1阻害剤であるカルベノキソロン(CBX)の効果を調べると、本毒素の細胞障害作用は、CBXの存在下で抑制された。次に、Pan1siRNAによるPan1のノックダウン細胞では、β毒素の細胞毒性は弱くなり、また、オリゴマーが抑制された。β毒素は、THP-1細胞に作用させると、一過性のATP遊離を引き起こし、この作用は、CBX存在下やPan1のノックダウン細胞では認められなかった。さらに、ATP スカベンジャーであるアピラーゼやへキソキナーゼに存在下では、本毒素の作用が抑制され、β毒素にるPan1を介するATP遊離が本毒素の毒性発現に関与することが判明した。さらに、遊離したATPの役割を明らかにするため、少量のATPを培地に外添加すると、β毒素の細胞毒性と細胞でのオリゴマー形成が増強された。以上から、本年度は、β毒素は、Pan1を介して毒性を発現することが判明した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ウエルシュ菌β毒素の細胞毒性のメカニズムにおけるPannexin1の役割が明らかとなった。β毒素の細胞毒性のメカニズムとPan1の関係:本毒素を感受性細胞のP2X7受容体に結合して細胞膜でオリゴマーを形成してそのポアからの、水分の流出入による細胞障害を示す。一方、本毒素の毒性がどのようなシグナル経路介して発現するかは明らかにされていなかった。今回の検討で 、本毒素は、Pan1から一過性のATP遊離を起こす一連の機構が明らかとなり、今後の本毒素の腸管病原性などの毒性メカニズム解明に大きく貢献すると考えられる。
今後は、ウエルシュ菌β毒素の作用をさらに、詳細に検討する。1)β毒素の腸管病原性とPan1の関係:β毒素はマウス腸管に対して絨毛の脱落や出血などの障害を示す。今回、本毒素の作用にPan1が関与することから、本毒素の腸管障害作用に対するPan1の役割を検討する。さらに、P2X7受容体との関係を明らかにする。これらは、腸管組織の免疫染色により、Pan1やP2X7受容体の変化を観察し、β毒素の組織内での局在も観察する。2)β毒素の腸管細胞に対する障害作用:β毒素の腸管障害メカニズムを明らかにするため、腸管細胞モデルとして Caco-2細胞を使用して本毒素の細胞障害作用を検討する。β毒素による細胞障害に対するP2X7受容体やPan1阻害剤の効果やsiRNAによるノックダウンの効果を検討する。以上より、本毒素による腸管に対する作用を組織学的変化からタンパク質レベルまで検討し、毒性発現の機構を明らかにする。
(理由)予定していた金額より、試薬代や器具代などの消耗品が安価に済んだこと、さらに、旅費が予想より下回った。以上の理由により、次年度使用額が生じた。(使用計画)β毒素の作用機構を詳細に検討するため、細胞生物学的な手法や動物実験、試薬や器具などの多くの消耗品代として使用する。また、成果発表のため、学会で出張費を使用する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (15件) 備考 (1件)
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