研究課題/領域番号 |
16K08798
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
山本 章治 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (80469957)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 二成分制御系 / PTS / シグナルネットワーク / コレラ菌 / キチン / DNA取り込み能 / キチン利用能 |
研究実績の概要 |
二成分制御系はヒスチジンキナーゼとレスポンスレギュレーターから成るリン酸基転移型のシグナル伝達系の一つであり,細菌が外部環境を認識して遺伝子発現を制御する上で主要な役割を担う。コレラ菌のキチン応答性ヒスチジンキナーゼであるChiS を介したシグナル伝達は,従来までのドグマから大きく逸脱している。ChiSを起点とするシグナル伝達は、非二成分制御系の転写制御因子TfoSに依存する経路とTfoSに依存しない経路の2つに分岐しており、両経路の活性化にはChiSのリン酸基転移に関わるアミノ酸残基を必要としない。さらにこのシグナル伝達は,細胞外からのキチン刺激だけでなく,糖の取り込みに関わるリン酸基転移系PTSを介して細胞内からも調節される。本年度はPTS蛋白質EIIAglcによるChiSシグナル伝達系の阻害機構について以下の解析を行った。 1)PTS糖の取り込みがシグナル伝達に及ぼす影響:グルコースやGlcNAcなどのPTS糖を加えた場合、EIIAglcを介してシグナル伝達が阻害された。 2)EIIAglcのリン酸化状態がシグナル伝達に及ぼす影響:PTS糖の添加はEIIAglcの脱リン酸化を促進した。また、EIIAglcのリン酸化能を欠く変異体では、PTS糖の有無に関わらずシグナル伝達が阻害された。 3)脱リン酸化EIIAglcによるシグナル伝達阻害と細胞内cAMPレベルの関連性:カタボライト抑制は,EIIAglcが脱リン酸化状態になり,細胞内cAMPの産生量が低下するために起こる。この状態で過剰量のcAMPを補給しても、シグナル伝達は阻害されたままであった。 以上の知見から、PTS糖によって脱リン酸化されたEIIAglcは、既知のカタボライト抑制とは別の機構によってChiSのシグナル伝達を阻害するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画は平成30年度に実施予定であったが、予想外に進展したため本年度に行った。EIIAglcとChiSの相互作用に関しては示せなかったものの、遺伝学的な解析から両者がリンクしている証拠を得ることができたため、学会で発表するとともに、専門誌に投稿するまでには至った。以上の理由から、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はChiSとEIIAglcもしくはTfoSとの相互作用解析に焦点を絞る。 1)ChiSの精製と抗ChiS抗体の作製:当初はChiSにペプチドタグを融合して蛋白質を検出していたが、融合蛋白質にすると活性が低下することが判明した。ネイティブな蛋白質を検出するために、大腸菌で大量発現させたChiSを膜画分から精製後、抗体を作製する。 2)ChiSとEIIAglcもしくはTfoSとの相互作用:ネイティブなChiSとペプチドタグで標識したEIIAglcを大腸菌で発現させた後、ケミカルクロスリンクを行う。次に、膜画分を抽出し、抗ChiS抗体を用いた免疫沈降法によりChiSとEIIAglcの複合体を検出する。ChiSとTfoSの相互作用についても同様の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが平成29年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成28年度分についてはほぼ使用済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり。
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