研究課題
肺炎球菌はヒトの上気道部に常在する日和見感染菌であり、小児や高齢者では重篤な侵襲性肺炎球菌感染症を引き起こす。近年、血清型交代現象によりワクチンが効かない血清型の肺炎球菌が増加している。また、臨床分離される肺炎球菌の50%以上がペニシリン耐性であり、多剤耐性肺炎球菌の出現も報告されている。このことから、本研究では血清型に依存しない新規予防法・治療法の開発に必要な、肺炎球菌の病原因子と宿主因子との相互作用について知見を蓄積することを目的としている。肺炎球菌侵襲性感染において肺炎球菌は、咽頭上皮細胞への付着・侵入、上皮細胞内の通過後組織下への移行を経て血流へと到達する。本研究では、一次バリアである粘膜上皮細胞内において感染を成立させるために必要な病原因子、および菌の排除に必要な宿主因子について、特にオートファジー誘導、炎症誘導に注目しながら探索をおこなう。現在までに、宿主細胞内生残性に必要な病原因子を14種類、細胞内に侵入した肺炎球菌と共局在する宿主因子27種類同定しており、感染成立におけるその機能について、細菌学的、細胞生物学的手法を用いて解析する。さらに、我々の研究から、肺炎球菌感染1時間以内の「感染初期」と感染2時間以降では細胞内でのイベントが大きく異なることが分かってきているため、本研究では肺炎球菌の感染ステージを初期と後期の2つに分け、肺炎球菌と宿主膜輸送系・タンパク質分解系との相互作用を解析する。本研究の成果から、侵襲性肺炎球菌感染症発症時における肺炎球菌と宿主との新たなインタラクションの局面が明らかにされることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
肺炎球菌の膜孔形成毒素であるニューモリシン(Ply)欠失変異株を作成し、野生株と共にMEF細胞に感染させオートファジー誘導性を解析した結果、Ply変異株でオートファジーが阻害され、選択的オートファジーに関与するすべての宿主因子のリクルートも消失した。次に、選択的オートファジーに関わるp62のノックアウト細胞を用いた実験により肺炎球菌に対するオートファジーには菌体周囲へのユビキチン集積、p62のリクルート、p62とLC3との結合が必要であることが明らかになった。さらに肺炎球菌を標的とするオートファゴソーム特異的にリクルートされるRabタンパク質を網羅的に探索した結果、肺炎球菌を標的とするオートファゴソーム特異的にリクルートされる7種類のRabタンパク質を見出した。それらのRabタンパク質のノックダウン実験を行った結果、5種類のRabタンパク質で肺炎球菌に対するオートファゴソームの数が顕著に減少し、そのうち3種類のRabタンパク質でノックダウン時に菌の細胞内生残性が大幅に増加していた。ノックダウン実験で菌の生残性上昇が一番顕著であったRabタンパク質に関してドミネガ体を作製し、肺炎球菌を標的としたオートファゴソームとの局在を解析した結果、ドミネガ体はオートファゴソームと共局在しなかった。さらに、ノックアウト細胞を作成し肺炎球菌を感染させたところ、肺炎球菌に対するオートファゴソームの数が顕著に減少し、菌の細胞内生残性が大幅に増加した。さらに、23種類の肺炎球菌病原因子欠損株をMEF細胞に感染させ、オートファジー誘導、抑制に関与する病原因子の探索をLC3-IIの量を指標に調べた結果、2種類の変異株でオートファジーが促進され、6種類の変異株でオートファジーが抑制されていた。この結果は、肺炎球菌感染において様々な宿主因子・病原因子がオートファジー制御に関与していることを示唆している。
今後は、Rabタンパク質のリクルートの意義を、今まで報告されている当該Rabタンパク質の機能に基づき確認を行う。また、ノックダウン時にオートファゴソームの数が顕著に減少し、菌の細胞内生残性が大幅に増加していた残り2種類のRabタンパク質に関しても、同様に解析を行う予定である。さらに、オートファジーが促進されていた2種類の変異株、および6種類のオートファジーが抑制されていた変異株について、まずオートファジー促進、抑制に関与する病原因子一種類ずつを選び、これらの病原因子の機能をin vitroで解析を行う。すなわち、293T細胞にこれらの病原因子を発現させてオートファジー制御への影響を精査する予定である。さらに、その各種阻害剤・ノックアウト細胞を用いて、オートファジー制御メカニズムについて明らかにする。また、プルアッセイおよびマス解析による宿主結合パートナー探索をおこなう予定である。さらに、肺炎球菌に対するLAP誘導性についてFIP200ノックアウトマウス由来のMEFを入手し、LAP誘導性、誘導メカニズムについて、ROS産生系の必要性、Rabとの共局在性、ノックアウトマウスMEFでの誘導性、阻害剤による抑制の有無などを指標に解析を行い、肺炎球菌によるオートファジー誘導とLAP誘導の比較をおこなう予定である。
年度末納品等にかかる支払いが平成29年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成28年度分についてはほぼ使用済みである。
上記のとおり。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Sci Rep.
巻: 7 ページ: 44795
10.1038/srep44795
Microbiology Open.
巻: なし ページ: 1-15
10.1002/mbo3.441