研究課題
肺炎球菌はヒトの上気道部に常在する日和見感染菌であり、小児や高齢者では重篤な侵襲性肺炎球菌感染症を引き起こす。近年、血 清型交代現象によりワクチンが効かない血清型の肺炎球菌が増加している。また、臨床分離される肺炎球菌の50%以上がペニシリン耐 性であり、多剤耐性肺炎球菌の出現も報告されている。このことから、本研究では血清型に依存しない新規予防法・治療法の開発に必 要な、肺炎球菌の病原因子と宿主因子との相互作用について知見を蓄積することを目的としている。 肺炎球菌侵襲性感染において肺炎球菌は、咽頭上皮細胞への付着・侵入、上皮細胞内の通過後組織下への移行を経て血流へと到達す る。本研究では、一次バリアである粘膜上皮細胞内において感染を成立させるために必要な病原因子、および菌の排除に必要な宿主因 子について、特にオートファジー誘導に焦点を当てて解析を行った。その結果、ユビキチン-p62-LC3カーゴレセプターにより誘導された選択的オートファジーによって肺炎球菌が殺菌され、その誘導には肺炎球菌の保有するニューモリシンが必要であることを明らかにした。さらに、詳細な解析の結果、その誘導には細胞内膜輸送に関与するRabファミリーでありゴルジ体に局在するRab41と、ユビキチン化におけるE3リガーゼであるNedd4-1を介したK63型ユビキチン鎖形成が必要であることが明らかになった。これらの結果は、細胞内に侵入した肺炎球菌と宿主との間に新たな攻防の局面が存在することを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
細胞内に侵入した肺炎球菌に対する選択的オートファジー認識機構に焦点を当てて解析を行った結果、ユビキチン-p62-LC3カーゴレセプターにより誘導された選択的オートファジーによって肺炎球菌が殺菌され、その誘導には肺炎球菌の保有するニューモリシン、細胞内膜輸送に関与するRabファミリーであるRab41、E3リガーゼであるNedd4-1を介したK63型ユビキチン鎖形成が必要であることを明らかにし、海外の学術誌に報告した。
我々の研究から、肺炎球菌感染1時間以内の「感染初期」と感染2時間以降では細胞内に侵入した肺炎球菌に対する細胞内でのイ ベント認識機構が異なるという結果を得ていることから、肺炎球菌感染初期に観察されるFIP200非依存性オートファジーについて、その誘導メカニズムをROS産生系の必要性、Rabとの共局在性、ノ阻害剤 による抑制の有無などを指標に解析を行い、感染2時間後に観察されるカノニカルなオートファジー誘導と感染初期に誘導されるノンカノニカルなオートファジー誘導の比較を詳細におこなう予定である。
(理由)年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。(使用計画)上記のとおり。
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Cellular Microbiology
ページ: e12846~e12846
10.1111/cmi.12846
https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/459-bacteriology/8010-bac-2018-001.html