インフルエンザウイルスのvRNPは、マイナス鎖一本鎖ゲノムRNA、核タンパク質NP、RNAポリメラーゼ複合体から構成されており、mRNA合成(転写)およびcRNA合成(複製の第一段階)を担う。ウイルス粒子から精製したvRNPは二重らせん構造を形成しているが、mRNAあるいはcRNA合成中のvRNPの構造については全く解明されておらず、これらのRNAがどのようにして合成されるのかも分かっていない。そこで本課題では、高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いてRNA合成中のvRNPを解析することにより、微細構造学的観点からインフルエンザウイルスゲノムの転写・複製機構を明らかにすることを目的とした。 昨年度までに、in vitro RNA合成中のvRNP複合体は、①二重らせん構造を維持した状態で二次構造を形成したRNAと結合、あるいは、②二重らせん構造が崩れた状態で二次構造を取らないループ状RNAと結合、のいずれかの状態で存在することを高速AFMにより明らかにした。さらに興味深いことに、ループ状RNAは二本鎖RNAであることを明らかにし、その構成鎖の5'末端がリン酸化されていることが明らかとした。すなわちループ状RNAは、de novo合成されるcRNAを含んでいる可能性が高い。さらにこの二本鎖ループ状RNAは、インフルエンザウイルスNS1タンパク質によってマスクされることを高速AFM観察により明らかとした。これはインフルエンザウイルスが二本鎖RNAのマスキングにより宿主の自然免疫応答から逃れている可能性を示唆しており、新たな研究の展開が期待される。最終年度は、高速AFMによるライブイメージングを行い、正電荷に富んだ脂質膜を用いることで基板上でのvRNPによるRNA合成が可能であることを見い出した。今後はRNA合成効率を高めることで、より詳細なvRNPの構造変化について検討したい。
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