研究課題/領域番号 |
16K08810
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
櫻木 淳一 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (90273705)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HIV / RNA / ウイルスゲノム / パッケージング / 感染 |
研究実績の概要 |
HIVは制圧されるべき病原体であり、かつ高いポテンシャルを持つ遺伝子導入ベクターの母体でもあるため、未だ不明な点の多いその生活環に関する基礎的研究は大きな意義を持つ。者はこれまでに一貫してHIV-1のゲノムRNAに関する解析を行ってきた。本課題において研究代表者はレトロウイルスゲノムRNAの発現からウイルス粒子内にいたるまでに特異な動態の変遷を、それを取り巻く因子との相互作用と共に視覚化し解明することを目的とした研究を志向した。これまでの自身の研究による成果を更に発展させることによって得られる、ウイルスの増殖に大きく影響するこれらの現象の詳細な解析を通して、レトロウイルスの本質とその理解に近づくことを主たる狙いとしている。 平成28年度はこれらの解析の準備段階として多数の蛍光蛋白・ファージ蛋白の融合蛋白産生ベクターの作成を行い、発現の確認や使用する細胞の選択等最適化作業を行っている。ウイルスゲノム側にも標識用標的配列として様々な種類のファージのゲノム配列を多数反復させて挿入し、こうした変異体がウイルス粒子産生能を維持しているか、野生型と比して動態が異なる可能性があるかどうかなどの検証を行っている。また、HIVゲノムの特異性を担う大きな因子であるDIS(二量体化開始領域)の詳細な機能的解析を行い、これまでに指摘されていなかった新たな構造の可能性を示唆し、報告した(SL1 revisited: functional analysis of the structure and conformation of HIV-1 genome RNA. Sakuragi S, Yokoyama M, Shioda T, Sato H, Sakuragi JI. Retrovirology. 2016 Nov 11;13(1):79.)。ウイルス粒子内ウイルスゲノムの断片化については次世代シーケンサーによる解析を行い、特異的ゲノム領域の量的偏在が考えられる興味深い知見を得て現在検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV-1のDISの機能的構造に関する新しい知見を見いだし、報告することができた点は高く評価できる。その反面、細胞内ウイルスゲノムの可視化についてはベクター作成にやや時間がかかり、細胞内可視化についても技術的な困難さが指摘されている部分がマイナスであることは否めない。粒子内ウイルスゲノムの断片化解析については興味深い事例が見いだされており、今後に期待が持てるものとなった。総合的に評価しておよそ期待された進捗状況であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
HIV-1ゲノムのパッケージングシグナル周辺の機能的構造解析については今後も精力的に研究を進め、ウイルスゲノムの特異的構造・動態を知る上での基礎的知見を積み重ねていきたいと考えている。細胞内の可視化ゲノム動態解析については技術的解決を図るため、今後実績のある研究室との積極的な共同研究を目指して行きたいと考えている。粒子内ウイルスゲノムの断片化解析については興味深い事例が見いだされており、今後日本最大級の次世代シーケンサーバリエーションを持つ大阪大学微生物病研究所のメリットを活かし、様々なシーケンサーを用いた解析を行うことでより詳細な解析を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
50万円程度の解析機器を購入する予定であったが、平成28年度の研究においては手持ちの機器で対応可能であったため購入予定を繰り下げた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に新たに解析技法が必要となった場合に機器を購入する可能性がある。あるいは研究が進展した場合に予定を拡充して消耗品・試薬類を購入する予算に充てることも検討している。
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