HIVは制圧されるべき病原体であり、かつ高いポテンシャルを持つ遺伝子導入ベクターの母体でもあるため、未だ不明な点の多いその生活環に関する基礎的研究は大きな意義を持つ。 研究代表者はこれまでに一貫してHIV-1のゲノムRNAに関する解析を行ってきた。本課題において研究代表者はこれまでの自身の研究による成果を更に発展させることによって得られる、ウイルスの増殖に大きく影響するRNA動態の詳細な解析を通して、レトロウイルスの本質とその理解に近づくことを主たる狙いとしている。 平成30年度はこれまでに引き続き蛍光性核酸SpinachおよびBroccoliを用いたRNA標識に関する検討を行った。RNAそのものがGFPを模倣した特異的高次構造を取るこれらの配列は、その構造に蛍光物質がインターカレートすることで特定波長の蛍光を発する。従来のRNAの細胞内可視化標識のためには蛍光蛋白をRNAに結合させる間接的標識法しか手段がなく、蛍光強度や特異性、バックグラウンド蛍光など解決すべき問題が山積していた。その結果リアルタイムで生細胞内の観察を行うことは難易度が高く、蛍光性核酸はこうした問題を解決する有力な代替手段になると考えウイルスへの挿入を含めたベクター作成の検討を行った。 一方でこれらの技術を適用する対象としてより基礎的なウイルスRNAの機能解析にも注力した。HIVゲノムのパッケージング能を担う大きな因子であるPsi(パッケージングシグナル)の様々な部位を対象に詳細な変異導入を行い、これまでに指摘されていなかった新たな塩基がPsiの高次構造維持に大きな役割を担っている可能性や、Psiがこれまでに知られていなかった新たなウイルス学的機能を内包している可能性などを示唆した。このことについては国内外の学会にて発表し、高い評価を得られた。現在共同研究者と共に論文化に向けた討論を行っている。
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