研究課題
コロナウイルスは、家畜および伴侶動物において神経系・消化器系・呼吸器系疾患を引き起こす感染症である。コロナウイルスは一般的にその感染宿主域は狭く、固有の動物種のみに感染する。2012年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)はヒトに重篤な肺炎を引き起こし、その原因病原体はMERSコロナウイルスである。本研究では2012年より発生している中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスの病態解明を目指して、細菌人工染色体(BAC)を用いたMERSコロナウイルスの遺伝子操作系の確立を行った。BACにMERSコロナウイルスの全長cDNAを組み込み、培養細胞に導入し、組換えウイルスを回収することに成功した。さらに、この遺伝子操作系を用いてMERSコロナウイルスの非構造蛋白質の一つであるnsp1蛋白質に着目し解析を行った。Nsp1蛋白質はRNA結合蛋白質であり、ウイルス由来のRNAと結合することを報告している。さらに、その結合をウイルス複製における重要性を調べるために遺伝子操作系を用いて解析した結果、nsp1蛋白質によるウイルスRNAとの結合はウイルスの複製に重要であり、さらに、ウイルスRNA上の特異的なRNA構造を認識していることが明らかとなった。次にnsp1蛋白質が結合するウイルスRNA上の特異的構造領域のウイルス複製における重要性を明らかにするために、ウイルスRNA上のnsp1蛋白質との結合領域の構造を壊すように変異を導入した結果、その構造領域はウイルスRNAのゲノム複製あるいはmRNAの合成に重要な領域であることが明らかとなった。このRNA構造はコロナウイルスのゲノム複製あるいはmRNAの合成に関する新しい知見を提供するものであると考えられた。
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