研究実績の概要 |
ALSは、運動ニューロン(運動の指令を大脳から筋肉まで伝える神経)が選択的に変性・脱落し、その結果、筋肉が動かなくなり、2~5年で呼吸筋麻痺により死亡する。現在、日本では約1万人の患者がいるものの、有効な治療法は確立されていない。我々は、これまでにオプチニューリンがALSの原因遺伝子であることを突き止めた(Nature, 2010)。さらに、オプチニューリンが、インターフェロン・ベータ(IFNb:ウイルス感染時、宿主から産生される抗ウイルス因子で自然免疫の中心的な役割を担う)産生に関与する可能性を報告した(Neuroscience Letters, 2011)。 家族性ALS患者ではオプチニューリンが機能欠失していることから、本研究では、オプチニューリン・ノックアウトマウスや、そのマウス細胞を用いて感染実験を行い以下を明らかにした。 ①培養細胞株へのウイルス感染では、オプチニューリン過剰発現下でIFNb産生量が低下した。逆に、オプチニューリン発現抑制下でIFNb量が増加した。②オプチニューリン欠損MEFへのウイルス感染では、野生型MEFよりIFNb量が増加した。③オプチニューリン・ノックアウトマウスより中枢神経系細胞株を樹立した。その細胞へのウイルス感染では、野生型コントロールよりIFNb量が増加した。④オプチニューリン変異ALS患者細胞へのウイルス感染では、IFNb量がコントロールとした健常人細胞よりも増加した。⑤オプチニューリン・ノックアウトマウスへの病原体感染実験では、オプチニューリン・ノックアウトマウスはコントロールの野生型マウスより生存率が高かった。この際、標的臓器内の病原体量はオプチニューリン・ノックアウトマウスの方が野生型マウスよりも少なかった。⑥オプチニューリン以外の原因遺伝子によるALS患者細胞へのウイルス感染では、IFNb量増加は観察されなかった。
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