研究課題
HIV潜伏感染の成立には、リンパ組織を取り巻く様々な微小環境の変化が関わると推測されるが、その詳細な機構は依然不明である。本研究では、HIV潜伏・再活性化を容易に観察可能なモデル細胞を作成し、ウイルス潜伏・再活性化に関わる分子機序解明を行うことを目的とする。平成28年度は、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子をコードしたウイルスゲノムを安定発現したT細胞株および単球/マクロファージ株を多数樹立した。定常状態においても検出可能なルシフェラーゼ活性を示したクローンを複数選出し、ウイルスゲノムの転写活性化を観察するためのモデル細胞とした。これらのモデル細胞は平均1~2コピーのウイルスゲノムが挿入されており、SAHAやTNF-αなどの転写活性化剤の投与によってHIV産生が顕著に促進された。まず本モデル細胞を用いて、作用点既知の低分子化合物約1千種からHIV転写を促進もしくは抑制するものを探索した。その結果、既知の化合物を含む多くの化合物がT細胞および単球/マクロファージの両方でHIV遺伝子発現を上昇させることが分かったが、いくつかの化合物は単球/マクロファージのみでHIV遺伝子発現を促進させた。細胞種特有のHIV再活性化機構の存在が考えられ、現在その詳細な作用機序について解析中である。一方、本モデル細胞をさまざまな外的刺激に曝してHIV転写活性の増減を調べたところ、培養環境中の酸素濃度の低下に伴いHIV遺伝子発現の低下が観察された。この細胞を通常酸素濃度に戻すと再びHIV遺伝子発現が増加した。細胞の生存率には影響がなかった。これらの結果から酸素濃度依存的かつ可逆的なHIV潜伏・再活性化機構の存在が示唆され、現在その詳細な作用機序について解析中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、HIV潜伏・再活性化をモニター可能なモデル細胞を複数樹立し、それらの性状解析を終えた。また本モデル細胞を用いて、細胞種特有のHIV再活性化機構の存在、および酸素濃度依存的かつ可逆的なHIV潜伏・再活性化機構の存在をそれぞれ見いだした。研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
前年度までに見いだしたHIV潜伏・再活性化機構のより詳細な分子機序解析を進める。とくに単球/マクロファージのみでHIV遺伝子発現を促進させた化合物については、薬剤作用点に対するさまざまな阻害剤を用いてパスウェイ解析を行い、新規latency-reversing agent(LRA)としての有用性について検討する。酸素濃度依存的な機構については、さまざまな酸素濃度下で培養したモデル細胞のトランスクリプトーム解析、エピジェネティクス解析などを行い、責任因子の同定を行う予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 8 ページ: 14259
10.1038/ncomms14259
Frontiers in Microbiology
巻: 7 ページ: 883
10.3389/fmicb.2016.00883
http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~saikin/