研究実績の概要 |
リンパ組織を取り巻く様々な微小環境の変化がHIV潜伏化・再活性化に関与すると推測されるが、その詳細な分子機構については不明な点が多い。本研究では前年度に樹立したHIV感染細胞株U2/U9(レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を有するHIVゲノムを恒常的に発現する単球由来細胞クローン)を用いた解析を行った。U2/U9細胞をさまざまな培養環境下で培養したところ、培養環境中の酸素濃度とウイルス遺伝子発現とに可逆的な相関性を見いだした。これらの細胞におけるウイルスプロモーター領域のエピジェネティクス解析により、低酸素培養下ではHIV潜伏化を示唆する特徴的なヒストン修飾が多数検出された。これらの結果から、低酸素環境はHIV潜伏化を促進させる可能性が示唆された。次に、HIV潜伏化に伴って発現上昇する宿主遺伝子の網羅的解析を行ったところ、約6,000遺伝子が抽出された。このうち、HIV潜伏化に関与する可能性のある因子群をバイオインフォマティクスで抽出した。これらの因子が潜伏化に関与する機構については現在解析中である。また、HIV潜伏・再活性化の作用機序解析および新規LRA(latency-reversing agents)開発のために、ケミカルバイオロジーを用いてHIV遺伝子発現を正もしくは負に制御する低分子化合物を探索したところ、中枢神経系受容体に作用する化合物のいくつかがU2/U9細胞におけるHIV遺伝子発現を顕著に高めることが分かった。現在その詳細な作用機序および新規LRAとしての有用性について解析中である。
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