先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染は新生児300人に1人の頻度で起り、感染児の約3割に神経学的障害などの疾病を起すため、ワクチン開発が求められている。本研究は、近年見出された内皮・上皮細胞及びマクロファージ指向性を決定するペンタマーと呼ばれる蛋白複合体に着目し、その構造と機能、ペンタマーを介した感染に関与する宿主因子、抗ペンタマー抗体による個体レベルでの感染防御を、動物モデルで明らかにすることにより、ワクチンの開発に資することを目的とした。 これまでに、小動物で唯一先天性感染を起しヒトCMVと同様なペンタマーをコードするモルモットCMV(GPCMV)について、BAC改変系を用いてペンタマー構成蛋白GP131に変異導入した解析で、GP131の異なる配列が上皮細胞指向性とマクロファージ指向性に関与することを見出した。さらに、GP131とGP133の組合せを発現させた細胞にGPCMVを感染させると感染効率が亢進する現象を見出した。30年度には、GPCMVの上皮細胞への感染はマクロピノサイトーシスに依存するが、感染亢進がエンドサイトーシスの亢進によるものではないことを明らかにした。また、ペンタマー構成蛋白は、単独での発現に比して、特定の組合せでは発現の安定化が見られることを見出した。 GPCMVのgBやペンタマー構成蛋白をそれぞれ発現する組換えアデノウイルスの組合せをマウスBALB/c由来上皮細胞やモルモットHartley由来上皮細胞に感染させ、細胞をadjuvantと混合後BALB/cやHartleyを免疫すると、結合抗体は抗原の組合せによらず誘導されたが、ペンタマー発現細胞の免疫でのみ高い中和能を有する抗体が誘導された。GPCMV感染で攻撃した場合、ペンタマー免疫した個体では体重減少の抑制、脾臓重量増加の抑制、臓器におけるウイルス量の減少など、有意な感染防御が見られた。
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