研究課題
E型肝炎ウイルス (HEV) は胆汁中や糞便中のウイルス粒子の物理化学的性状からノンエンベロープウイルスに分類されている。一方で、血液中や培養上清中に放出された粒子は細胞由来の脂質膜に覆われている。これらの形態の異なるHEV粒子は共に培養細胞への感染性を有しているが、それぞれが利用する感染受容体については明らかとなっていない。本年度は、膜に覆われたHEV粒子の性状を詳細に解析した。その結果、HEV感染細胞に由来する培養上清のエクソソーム分画には、脂質膜に覆われた感染性を有するHEV粒子が存在し、粒子表面の膜成分はエクソソームと共通の抗原性を有していることを見出した。また電子顕微鏡解析により、これらのHEV粒子は個々のキャプシドが脂質膜に覆われた形態を取っていることを明らかにした。以上の結果から、膜に覆われたHEV粒子の外側にはORF2蛋白質は露出しておらず、粒子形態の違いにより利用する受容体が異なることが示唆された。本研究成果は、Journal of Virology (Nagashima et al. Characterization of the quasi-enveloped hepatitis E virus particles released by the cellular exosomal pathway. 91:e00822-17,2017) に掲載された。また、昨年度に同定した膜に覆われたHEV粒子の受容体候補蛋白質をCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトした細胞を作製し、HEVの増殖能を調査した結果、増殖効率は明らかに低下し、低いウイルス感染価での接種実験ではHEVの増殖が完全に抑制された。さらに、受容体候補蛋白質と同じ蛋白質ファミリーに属する別の蛋白質が、膜に覆われていないHEV粒子の感染初期過程に関与していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画のうち、HEV感染の初期過程に関与する受容体の同定に向けては、昨年度に同定した膜に覆われたHEVの受容体候補と考えられる蛋白質の機能解析を進めた。CRISPR/Cas9システムを用いて、受容体候補蛋白質をノックアウトした細胞を作製し、膜に覆われたHEVを接種した結果、HEVの増殖が阻害された。また、膜に覆われたHEVに感受性を示さない細胞株を解析し、これらの細胞株では受容体候補蛋白質が発現されていないことを確認した。これにより、受容体候補蛋白質の安定発現細胞の作製が可能となった。感染感受性を規定する宿主因子の探索についても、膜に覆われたHEVの感染初期過程にタイトジャンクションが関与していることが明らかとなり、重要な働きをするタイトジャンクション蛋白質を同定した。さらに、膜に覆われていないHEVの感染初期に必要な蛋白質を同定することができた。この蛋白質は、膜に覆われたHEVの受容体候補蛋白質と同じ蛋白質ファミリーに属するものであり、膜に覆われていないHEVの受容体としての機能を有することが示唆された。以上のように、次年度の研究を計画通りに実施し進展させることが可能となっており、本年度の研究は当初の計画通り進捗していると判断された。
今後は、膜に覆われたHEVの受容体候補蛋白質を発現していない細胞に、候補蛋白質を発現させた安定発現細胞を作製する予定である。これらの細胞を用いて、HEVの吸着、細胞内侵入、増殖能を解析し、感染感受性が付与されるか否かを調べる。非感受性細胞を用いた感染付与実験が困難であった場合は、ノックアウト細胞を用いて安定発現細胞を作製し、解析を進める。膜に覆われていないHEVの感染初期過程に関与していることが明らかとなった蛋白質についてもノックアウト細胞を作製し、HEVの増殖能への影響を調べる予定である。さらに、受容体としての機能を明らかにするために、同定された蛋白質に対する特異抗体を用いてHEV感染阻害効果の解析を行う計画である。以上の解析により、粒子形態の違いにより利用する感染受容体や宿主因子が異なることを提示したいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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