研究課題/領域番号 |
16K08818
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
森川 裕子 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (20191017)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HIV / Gag / 輸送 / 感染シナプス / サイトカイン / 細胞骨格系 |
研究実績の概要 |
1)感染シナプスにおける細胞骨格系の再構築:Strawberry-Tubulin恒常発現Jurkat細胞を樹立した。HIVを感染させ非感染細胞と共培養して感染シナプスを形成させた。固定細胞を観察したところ、MTOCはシナプス形成側(細胞間接着部位側)の細胞質だけでなく遠位側(反対側)にも認められ、生細胞イメージングによる観察が必要と思われた。EB1-mCherryの発現は弱かった。また、アクチン結合性のLifeact-Strawberry恒常発現Jurkat細胞を樹立し、HIVを感染させ非感染細胞と感染シナプスを形成させた。固定細胞では細胞間接着側に厚いアクチン繊維が認められた。 2)Gag蛋白の微小管系輸送:Strawberry-Tubulin恒常発現Jurkat細胞にGag-EGFP発現HIVを感染させた。生細胞イメージングで観察ところ、Gag-EGFPが微小管系輸送されることが判明した。微小管重合阻害薬で処理すると、Gag-EGFPの細胞内輸送が抑制された。 3)感染シナプスにおけるサイトカイン分泌輸送経路を介したGag蛋白輸送:サイトカイン分泌輸送を制御する分子群のいくつか(Syntaxin, SNAP23, Rab27)に対するshRNAをJurkat細胞に導入し、ノックダウン細胞を樹立した。これらの細胞にHIVを感染させたところHIV粒子産生は遅延・抑制された。感染シナプスを形成させたところ、TNF分泌を制御するSyntaxinのノックダウンでは、HIV産生の抑制は感染シナプス形成部位には限定されていなかった。SNAP23及びRab27のノックダウンの場合については現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)細胞骨格系の解析:Strawberry-Tubulin, EB1-mCherry, Lifeact-Strawberry等の恒常発現Jurkat細胞を作製するため、pCAGGS-Neoとレンチウイルスベクターを用いた。pCAGGS-Neoで導入した場合(Strawberry-TubulinとLifeact-Strawberry)は十分な発現量が得られたため、共焦点顕微鏡解析ができた。イメージング解析も可能であると思われる。 2)感染シナプスにおけるGag蛋白の極性輸送:Strawberry-Tubulin恒常発現Jurkat細胞とGag-EGFP発現HIVが準備でき、それらを組み合わせることにより、生細胞イメージングでGag-EGFPの微小管系輸送が解析できた。現在、感染シナプスを形成させてMTOC局在を観察する実験とGag-EGFPの微小管系輸送を合わせて行っている。 3)感染シナプスにおけるサイトカイン分泌輸送経路:サイトカイン分泌輸送を制御する分子群(Syntaxin, SNAP23, Rab27)のノックダウンJurkat細胞を樹立できた。ノックダウン効率は低かったが、これらの細胞でHIV粒子産生の遅延・抑制が確認できた。SyntaxinはTNF分泌(multi-directional secretion)を制御する分子であり、感染シナプスにおける細胞間接着部位への輸送と関連が少ないのは予想通りであった。SNAP23, Rab27は、免疫シナプスにおける細胞間接着部位へのサイトカイン極性輸送(one directional secretion)を制御する分子であり、次年度以降はこれら分子のノックダウンJurkat細胞におけるHIV感染シナプス形成成立を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画は以下の通り。 1)感染シナプスにおけるHIV粒子放出(エクソサイトーシス):SNAP23, Rab27は微小管系輸送を介してサイトカイン小胞を免疫シナプスの細胞間接着部位へ分泌輸送する。また免疫シナプスでは細胞内小器官も細胞間接着部位に引き寄せられる。そこで、SNAP23, Rab27のノックダウンJurkat細胞にHIVを感染させ、感染シナプスの形成が抑制されるかを解析する。また、エンドソームを介したHIV放出の可能性を解析する。すなわち、CD63-GFP恒常発現Jurkat細胞を作製するか、蛍光標識LysoTrackerで後期エンドソームを標識する、あるいは、Rab9のノックダウンJurkat細胞を樹立する。これらの細胞でHIV感染シナプスを形成させ、Gag蛋白の細胞内局在を観察する。細胞間接着部位を電子顕微鏡で観察する。 2)感染シナプスにおけるミトコンドリア(エクソサイトーシスのエネルギー源)局在:免疫シナプスの細胞間接着面にはミトコンドリアが集積し、サイトカイン放出やT細胞シグナルのATPを供給する。申請者らは感染シナプスの脂質ラフト画分のプロテオーム解析で、感染シナプス形成に伴ってミトコンドリアATP合成酵素とエンドソームV-ATP分解酵素が脂質ラフト画分に集積することを見出している(未発表)。これを細胞生物学的に証明する。ミトコンドリアを蛍光標識し、感染シナプスの細胞間接着面にミトコンドリアが集積するか、またHIV粒子と共局在するか、生細胞イメージングと共焦点顕微鏡で解析する。微細構造については電子顕微鏡で観察する。ノックダウンは致死的なので、ATP合成酵素阻害薬とV-ATP分解酵素阻害薬を利用する。免疫シナプスではミトコンドリアは制御分子Drp1に依存して細胞接着面側に集積するので、Drp1ノックダウン細胞を樹立しHIV粒子の放出を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
事務都合による。
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次年度使用額の使用計画 |
電子顕微鏡による解析は現有設備が修理不能となったため、受託する予定。
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