研究実績の概要 |
1)Gag蛋白輸送における責任宿主分子の動員:TSG101(ESCRT-I構成因子)、AP1, AP2, AP3(クラスリンアダプター)、Rab7, Rab9(後期エンドソームの輸送制御分子)がGag蛋白輸送やHIV粒子出芽の関連分子として報告されている。Gag蛋白とSyntaxin, APμ分子, TSG101をEGFP, Cherry, Strawberryで蛍光標識し、生細胞イメージングで観察したところ、Gag蛋白とSyntaxinの共輸送は認められたが、AP1μ, AP3μやTSG101は核近傍に局在したままでGagとの共輸送は認められなかった。Syntaxin KD細胞ではGag蛋白輸送は阻害され、Gag蛋白は細胞質にdiffuseに散在した。 2)感染シナプスにおけるHIV粒子放出(エンドソームからのエクソサイトーシス):SNAP23(形質膜局在のSNARE分子)と、Rab7, Rab9に対するshRNAをJurkat細胞に導入し、ノックダウン(KD)細胞を樹立した。Rab7 KD, Rab9 KD細胞にHIVを感染させたところHIV粒子産生は遅延・抑制された。HIVを感染させ非感染細胞と共培養して感染シナプスを形成させた。固定細胞で観察したところ、後期エンドソームCD63分子が細胞接着部位に局在する傾向が認められた。初期エンドソームEEA1分子とリサイクリングエンドソームRab11分子の局在については現在解析中である。 3)感染細胞におけるサイトカイン分泌:Jurkat細胞からのサイトカイン分泌量をELISAで定量した。未刺激Jurkat細胞ではIL-2, TNF-α(T細胞産生サイトカイン)はほとんど分泌されなかったが、PMAで刺激して活性化させると多量に分泌された。HIVを感染させるとその分泌量は減少した。その減少はSyntaxin KD細胞で顕著であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)Gag蛋白輸送における責任宿主分子群の細胞動態:既にSyntaxinとTSG101やAP1μ, AP3μとの相互作用を酵母Two-hybrid法により明らかにしている。本年はこれら分子を蛍光標識しGag-EGFPとともに生細胞イメージングで調べたところ、Syntaxinとは異なり、TSG101やAP1μ, AP3μは核近傍に局在したままでGag蛋白と共輸送されず、またSyntaxinとも共輸送されない知見が得られた。すなわち、Gag-Syntaxin複合体が輸送過程でAP1, AP3やTSG101と一時的に相互作用する、あるいはその一部だけが動員される可能性が示唆できた。生化学的解析は次年度に行う予定。 2)感染シナプスにおけるエンドソーム:Rab7 KD, Rab9 KD細胞ではHIV粒子産生が遅延・抑制されることが確認できた。感染シナプスを形成させると後期エンドソームCD63分子が細胞接着部位に局在する傾向が認められたが、生細胞イメージングでの経時的な観察が必要であると思われた。蛍光標識LysoTrackerで後期エンドソームを標識して感染シナプスを生細胞イメージングで観察する予定。 3)感染細胞におけるサイトカイン分泌:Jurkat細胞からのサイトカイン(IL-2, TNF-α)分泌にはPMA等の刺激が必要であることが確認できた。この刺激活性化細胞にHIVを感染させると分泌量は減少し、Syntaxin KDによりさらに減少したことから、HIV感染によるサイトカイン分泌抑制とSyntaxinの関与が示唆できた。一方、HIV感染細胞の培養上清にはサイトカインがほとんど分泌されなかったことから、HIV感染はJurkat細胞を活性化しないことが示唆された。 4)ミトコンドリア局在:感染シナプスにおけるミトコンドリアの局在観察に着手できた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画は以下の通り。 1)感染シナプスにおけるHIV粒子放出(エクソサイトーシス):SNAP23, Rab27はサイトカイン小胞を免疫シナプスの細胞間接着部位へ分泌輸送する。そこで、SNAP23 KD, Rab27 KD細胞でのHIV感染シナプスの形成を解析する。また、LysoTrackerで後期エンドソームを蛍光標識し、エンドソームを介したHIV放出について解析する。 2)感染シナプスにおけるミトコンドリア局在:免疫染色により感染シナプス(の細胞接着側)へのミトコンドリアの偏りが観察できた。次年度はMitoTrackerでミトコンドリアを蛍光標識し、感染シナプスの細胞間接着面にミトコンドリアが集積するか、またHIV粒子と共局在するか、生細胞イメージングと共焦点顕微鏡で解析する。ATP合成酵素阻害薬とV-ATP分解酵素阻害薬を利用する。 3)Gag蛋白輸送における責任宿主分子の交換反応:SyntaxinとGag蛋白の共発現細胞と、APμ, TSG101発現細胞からそれぞれ膜画分を分離し、in vitroで混合して分子の交換がおこるのかを解析する。
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