研究課題/領域番号 |
16K08819
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
佐々木 潤 藤田保健衛生大学, 医学部, 講師 (70319268)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アイチウイルス / ピコルナウイルス / ゲノム複製 / コレステロール輸送 |
研究実績の概要 |
アイチウイルスは、ヒト急性胃腸炎関連ピコルナウイルスである。我々は、アイチウイルスのゲノム複製機構の解明を目的とした研究を行ってきた。本研究では、アイチウイルスゲノム複製に関与する宿主因子の同定および機能解析を行っている。アイチウイルスを含む多くのピコルナウイルスは、細胞のコレステロール輸送システムを利用してゲノム複製部位にコレステロールを蓄積させることが知られている。我々もこれまでに、ウイルスタンパク質がコレステロール輸送タンパク質OSBPを複製部位にリクルートすること、およびOSBPがアイチウイルスのゲノム複製に必須であることを示してきた。このOSBPは小胞体からゴルジ体へコレステロールを輸送し、代わりにリン脂質PI4Pを逆方向に輸送するが、このコレステロール/PI4P輸送システムには、多くの他の細胞タンパク質が関与している。今年度は、このような細胞タンパク質がアイチウイルスの複製に関与するかどうか調べた。その結果、OSBPが小胞体膜上に存在するための足場の働きをするVAP、PI4Pを脱リン酸化する酵素SAC1などもアイチウイルスゲノム複製に必要であることが示された。さらに、これらのタンパク質がウイルスタンパク質と相互作用することも明らかにした。これらの結果は、アイチウイルスがタンパク質相互作用を通じてOSBPによるコレステロール/PI4P輸送システムをハイジャックして、自身のゲノム複製に必要な脂質環境をゲノム複製の場に作っていることを示唆している。このような、タンパク質相互作用を通じたOSBPによるコレステロール/PI4P輸送システムのリクルート法は、他のピコルナウイルスでは報告されていない、新たな知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、アイチウイルスのゲノム複製に細胞のOSBPによるコレステロール/PI4P輸送システムが必要であること、および、アイチウイルスはこの輸送システムに関与する複数の細胞タンパク質をウイルスタンパク質との相互作用を通じてゲノム複製の場にリクルートすることを明らかにした。アイチウイルスゲノム複製に関与する宿主タンパク質を複数、明らかにすることができたことに加え、コレステロール/PI4P輸送システムをリクルートする方法も、他のピコルナウイルスでは報告されていないタンパク質相互作用を通じたものであることを明らかにした。そして、これらの結果をまとめた論文も発表することができた。このように、本研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、アイチウイルスゲノム複製における小胞体/ゴルジ体間のコレステロール輸送システムの必要性を明らかにした。細胞のコレステロールは、細胞膜から小胞体へと輸送されてくる。コレステロールが小胞体へ運ばれるまでの過程でもアイチウイルスのゲノム複製へ関与しているのかどうか検討することは、意味があるものと考える。また、アイチウイルスを含む+鎖RNAウイルスは、ゲノム複製に細胞小器官の膜を利用する。したがって、膜の構成成分であるコレステロール以外の他の脂質についてもアイチウイルスのゲノム複製に必要なものがあるのかどうかの検討も、行ってみる考えである。このように、脂質輸送や代謝とアイチウイルスゲノム複製とのかかわりについて、今後さらに検討していくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究をまとめて、論文執筆を中心に行っていた期間があったこと、および、年度後半に次の実験の方針策定をしていたことなどにより、消耗品などの物品費の購入が減少したことが、次年度使用額が生じた理由です。次年度の研究方針も決まり、購入が必要な試薬などもおおむね決まってきたので、消耗品を中心とした物品費が多くなることが考えられ、次年度で使用していく考えです。
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