研究課題/領域番号 |
16K08824
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
横山 勝 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (70296028)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HIV-1 / エンベロープ / ランダム行列理論 / セクター / スペクトラルクラスタリング |
研究実績の概要 |
蛋白質の機能領域はアミノ酸残基がセクターを形成して機能する。そのため、このセクターを構成するアミノ酸残基を知ることは、蛋白質の機能の理解および制御するために重要である。本研究では、HIV-1 Envの中和抗体逃避および機能発現のメカニズムを明らかにするために、ランダム行列理論により構造セクターおよび進化セクターの推定を行う。本年度は、HIV-1 Env三量体の平衡構造の解析、およびランダム行列理論によるセクターの推定プログラムの開発を行った。 HIV-1 Env三量体の平衡構造を分子動力学計算により得た。分子動力学計算に用いた初期構造は、ホモロジーモデリング法により構築した中和抵抗性株である。糖鎖はMan5GlcNAc2を付加した。分子動力学計算はAmber16のpmemd.cudaモジュール、力場は蛋白質に ff14SB、糖鎖にGLYCAM_06j-01を用いた。圧力は1atm、温度は310K、塩濃度は150 mM NaCl、計算時間は500 nsとした。初期構造からの構造変化をRMSD(平均二乗偏差)により調べると、RMSDは約250 n以上でほぼ一定であり平衡構造に達したと考えられる。 これまで、ランダム行列理論によるセクター推定は、相関行列の固有ベクトル成分の比較により行っていたが、高々4つのセクターまでしか推定できない問題があった。本研究では、相関行列からランダム行列理論によりノイズ除去を行い、得られたデータのスペクトラルクラスタリングにより、セクターを推定するプログラムの開発を行った。新しく開発したプログラムを評価するために、HIV-1 gp120の分子動力学計算を行い、これまでの手法と新しい手法で構造セクターの推定を行った。これまでの手法では3つのセクターが推定されたが、新しい手法では6つのセクターが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究計画は、HIV-1 Env三量体の平衡構造の解析、およびランダム行列理論によるセクターの推定プログラムの開発であった。HIV-1 Env三量体の平衡構造の解析では、分子動力学計算のためにHIV-1 Env三量体の初期構造を構築し、平衡構造を得る計画であった。現在まで、分子動力学計算により平衡構造を得ている。計算時間は100 ns以上としていたが、500 nsまで行った。これは、GPU搭載サーバを購入したことにより、計算速度の向上が達成されたためである。現在、さらに計算時間を1250 nsまで伸ばし、平衡構造における動的性質のデータ収集を行っている。当初の計画よりも計算時間を伸ばすことが可能となった。 ランダム行列理論によるセクターの推定プログラムの開発では、これまでのランダム行列理論によるセクター推定は、高々4つのセクターまでしか推定できない問題があった。これを克服するために、新しいセクター推定法としてスペクトラルクラスタリングを取り入れた手法を考案した。新しい手法では、これまでの手法により推定されたセクターを含む、より多くのセクターが推定された。当初の計画の手法よりも多くのセクターを推定できる手法を開発したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、HIV-1 Env三量体の構造ゆらぎの解析と構造セクターの推定を行う。今年度に得られたHIV-1 Env三量体の平衡構造を用いて、分子動力学計算による構造柔軟性の特徴の解析を行う。計算条件は今年度の分子動力学計算と同じとし、計算時間は初期構造から1250 ns、すなわち平衡構造に達してから1000 nsとする。分子動力学計算により得られた平衡構造におけるデータを用いて、AmberToolsによりRMSF(根平均二乗ゆらぎ)、および動的相互相関行列を計算する。 HIV-1 Env三量体の動的相互相関行列を解析することで、連動して運動するアミノ酸残基のグループである構造セクターの推定を行う。セクター推定に用いるプログラムは、本研究で作成したセクター推定プログラムである。動的相互相関行列からランダム行列理論によりノイズ除去を行い、得られたデータをスペクトラルクラスタリングすることによりセクターを推定する。推定した構造セクターをHIV-1 Env三量体に表示することで中和抗体逃避や機能発現のメカニズムを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが平成29年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成28年度分についてはほぼ使用済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり。
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