研究課題/領域番号 |
16K08826
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
前田 賢次 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 室長 (50758323)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HIV / 逆転写酵素 / 薬剤耐性 / EFdA/MK-8591 / 構造解析 / 逆転写酵素阻害剤 / 抗ウイルス療法 |
研究実績の概要 |
研究者は臨床試験段階にある核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI):EFdA(4'-Ethnyl-2-fluoro-2' -deoxyadenosine)/MK-8591およびその誘導体の耐性HIVに対する活性の検討を進めて来た。これまでにこれらのNRTIでは糖の4’位の修飾基の違いにより多剤耐性HIVに対する活性が大きく異なるだけでなく、4’位の構造が薬剤のHIV逆転写酵素(HIV-RT)とHBV-RTに対する親和性の違いを決定づける要素にもなっている事も明らかにしている(Antiviral Therapy 19:179-89,2014; Hepatology 62:1024-36,2015)。本研究ではこれらの基礎的所見をより詳細に解析、本年度はその機序について野生型逆転写酵素(RT)とEFdAの結晶構造を元にしたモデリング解析などを進めた。具体的には4’位の修飾基を置換したEFdA誘導体のうち、薬剤耐性HIVに対して効果の強い化合物、あるいは逆に活性を示さなかった化合物に対して逆転写酵素と化合物の結合様式の解明を結晶解析コンピューターモデリングの手法を用いて行った。EFdAの4’エチニルは逆転写酵素の活性部位を形成するcavityに極めて強固に結合、さらにこの結合(相互作用)はRTの薬剤耐性変異であるM184V(cavity内に存在)を持つRTに対しても強固な結合を維持する結合様式を取っていることが分かった。それに対して、薬剤耐性HIV、特にM184Vの存在で活性が減弱するグループに属するEFdA類似体(SK13-204)はその4’位にメチル基を有しており、構造モデリングによる結合様式解析で野生型RTのcavityでは活性部位と4’位メチルの結合は維持されているものの、M184Vを含む薬剤耐性型RTの活性部位に対して4’位メチルの結合力が大きく減弱することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の成果として、まずはEFdAと同様に糖の4’位に修飾基を有する多数のEFdA誘導体の詳細な抗HIV活性評価を行った。4’位にエチニル基を有する化合物の他に、シアノ基、メチル基、フルオロメチル基など複数の異なる修飾基を持つ化合物(15種類)に関して野生株HIVおよび各種の薬剤耐性変異をRT領域に有する薬剤耐性HIV株に対する活性の評価を行った。評価したいずれの薬剤も野生株HIVに対して活性を有し(IC50: 0.2~247 nM)、エチニル基以外の修飾基を有する化合物でも強い活性(IC50: 3 nM程度)を有するものが認められた。これらの薬剤の耐性ウイルスに対する活性評価を行った。具体的にはK65R, D67Δ/T69G/K70R/L74I/V75T, M184V, T215Fなど既存のRTIsに耐性を示すとされる変異を有する株が用いられた。EFdAに関しては野生株に対してIC50: 0.3 nMと強い活性を示し、かつこれらの薬剤耐性株に対しても活性の減弱がほとんど見られず(~12倍の活性低下)、IC50値は0.1~3.7 nMと良好な数字を維持していた。そのほかの薬剤でEFdAと同じく4’位にエチニル基を有する薬剤、さらには4’位にシアノ基を有する化合物に関してはEFdAと同じく薬剤耐性株に対しても非常に良好な活性を維持していたが、メチル基などそれ以外の修飾基を持つものに関しては薬剤耐性変異、特にM184Vを持つウイルス株に対して活性が大きく減弱、多くの化合物でIC50: 1 μM以上となった。このように4’位の修飾基の違いだけで耐性株に対する活性が大きく変わる機序について4’エチニルを有するEFdAと4’メチルを持つSK13-204についてRT活性化部位との結合様式の比較を構造モデリングの手法を用いて行い、これらの薬剤についての構造モデルでの比較に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
進展状況の項に記載した通り、本研究の基礎となる薬剤耐性HIV株に対する、これら複数のEFdA誘導体に対するウイルス学的活性評価について、昨年度までに完全に終了することができた。さらに、これらの中で特に耐性株に対しても良好な活性を有するEFdAとM184V変異に対して大きく活性を減弱させた4’メチルを有する化合物(SK13-204)との構造学的結合様式の比較研究のための構造モデリングのデータを得ることに成功している(投稿準備中)。このモデリングには昨年発表された野生株HIV-RTとEFdAの結晶構造解析データ(Salie, Mitsuya, Sarafianos et al. PNAS, 2016))が用いられ、コンピュータによるモデリング解析は研究者(前田)の共同研究者(米国NIHのDr. Deb Das)との共同で進めている。 現在、SK13-204以外の化合物(4’位に他の修飾基を有する)に関する構造解析が進行中であり、これらの結果が得られた後に、より多くの異なる構造の間での薬剤耐性RTへの活性維持・活性減弱のメカニズム解明のための検討を進めていく予定である。さらにこれらの構造解析の一端として、コンピュータモデリングだけでなく、薬剤と耐性RTとの結合時における結合力、安定性をより詳細に評価するためのmolecular dynamicsの検討のための新たな手法を用いた検討も進めており、将来的にはこれらの結果も加味した解析を進めている予定である。今回得られた結果を元に、薬剤耐性RTに対してより強固に結合できる新たなRT阻害剤の設計を行い、新規薬剤の開発に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度末(3月)に国内での研究打ち合わせの計画があり、それのために予算を取っていたが延期となったため次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の物品費にて使用予定、具体的にはFacs解析用の抗体を購入する計画があり、これに用いる予定である。
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