本研究では現在臨床開発段階にある強力なNRTI(逆転写酵素阻害剤):EFdA/MK8591を出発点として薬剤耐性に関わる構造学的解析を行った。EFdAは薬剤耐性HIVに対して極めて強力な効果を維持しているが、その一方で構造的に似た構造を有する類似体には薬剤耐性株に対して活性のないものも存在する。EFdAと野生株HIV-RTとの結晶構造を鋳型とした構造モデリングの検討では、EFdAのように4’位にエチニル基あるいはシアノ基を有する化合物に関してはM184Vなどの薬剤耐性変異を有するHIV-RTに対しても非常に強力な親和性を有することが分かった。それに対して4’位にその他の構造を有する類似化合物は薬剤耐性RTに対しては結合を維持できないことをEFdAとHIV-RTとの結晶構造および構造モデリングにより明らかにした(Cell Chem. Biol. 2018)。その一方でHIV-RTと同じくRT(DNAポリメラーゼ)が治療のターゲットとして有効であるB型肝炎ウイルス(HBV)のRTの構造学的比較解析研究も進めた。HIV-RTの薬剤耐性関連変異であるQ151Mに関して、Q151MのM(メチオニン)はHBVのアミノ酸に対応する変異であるとともにQ151M変異を有するHIV-RTに対して本来はHBVにしか活性を有しないエンテカビル(ETV)が強い活性を持つことが明らかとなった。この機序についてQ151M変異を有するHIV-RTの結晶構造解析を行いその活性獲得機序を構造学的に説明することに成功した(Sci. Rep. 2018)。本研究で得られた成果は、薬剤耐性HIV株に有効な新規抗HIV薬のデザインに有効であるとともに、異なるウイルスのRTおよびDNAポリメラーゼとその阻害剤に関する構造・活性比較解析研究の進展と新たな治療薬開発が期待される。
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