研究課題
Toll like receptor (TLR) 7およびTLR8 はウイルス由来一本鎖RNAを認識し、強力な抗ウイルス応答を誘導する。これまでに我々は、TLR7/8がssRNA自体ではなく、ssRNAの分解産物であるヌクレオシドとオリゴヌクレオチドの両者を同時に認識して免疫応答を誘導するという知見を見出している。実際、ssRNAにグアノシンまたはウリジンを加えて免疫細胞を刺激することで、TLR7とTLR8がそれぞれ相乗的に活性化する。しかし、免疫細胞に発現するTLR7/8がssRNAを認識する際にその分解産物であるウリジンやグアノシンを実際に結合していることを示すのは難しい。そこで本研究では、RNAを分解するRNaseやリソソーム内の核酸濃度を制御する核酸トランスポーターがTLR7/8によるssRNA応答に関与することを示し、ssRNAの分解が細胞内のTLR7/8応答にも必須であることの実証を目指す。本年度は、様々な核酸代謝関連遺伝子をJ774細胞(マクロファージ細胞株)でノックアウトし、TLR7のssRNA応答に関与する分子の同定を行った。その結果、RNaseT2およびSLC29A3ノックアウト細胞においてTLR7/8のssRNA応答に変化が認められた。また、これらin vitroスクリーニング結果より得られたRNaseT2およびSLC29A3のノックアウトマウスを作製した。これらのマウスを解析したところ、RNaseT2ノックアウトマウス由来のマクロファージではTLR7のssRNAに対する応答が顕著に減弱した。一方、SLC29A3ノックアウトマウス由来のマクロファージではTLR7のssRNAに対する応答が増強されており、細胞内にグアノシンアナログが蓄積していることが判明した。以上の結果は、核酸の分解およびヌクレオシドの蓄積がTLR7応答に必須であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、TLR7によるssRNA応答に核酸代謝関連遺伝子が関与することを証明することができた。また、CRISPR/CASシステムを利用したノックアウトライブラリーの実験系の立ち上げを行い、TLR7応答に関与する新規分子を同定することができた。以下、予定していた研究内容の達成度の詳細を記載する。1.代謝関連遺伝子ノックアウト細胞の作製 : ヌクレオシドトランスポーターであるSLC28A/SLC29Aファミリー(計7分子)、フォスファターゼファミリー(計20分子)、RNase Aファミリー、RNaseT2、およびグアノシン分解酵素のPNP(purine nucleoside phophorylase)のノックアウト細胞をCRISPR/CASシステムにより作製し、TLR7のssRNA応答への関与を検証した。その結果、RNaseT2とSLC29A3が同現象に関与することが判明した。2. CRISPR/CASシステムを利用したノックアウトライブラリースクリーニング : TLR7応答に関与する遺伝子を同定する為、TLR7を強制発現したBa/F3レポーター細胞を用いてノックアウトライブラリースクリーニングを行った。その結果、TLR7の低分子リガンドであるR848応答に関与する新規分子は複数得ることができたが、ssRNA応答に関与する新規分子は得られなかった。これは同実験系のssRNA応答におけるS/N比が悪いことに起因すると思われる。3. 代謝関連遺伝子ノックアウトマウスの作製および解析: RNaseT2およびSLC29A3ノックアウトマウスの作製を行い、これら遺伝子がTLR7におけるssRNA応答を制御することが示された。特にTLR7応答が増強されたSLC29A3ノックアウトマウスはH症候群様症状を示すことから、同病態へのTLR7の関与を今後検証していく。
本年度に得られた結果は、TLR7/8におけるssRNA認識において核酸代謝関連遺伝子が明らかに関与することを示している。今後は、RNaseT2とSLC29A3以外にも同応答に関与する代謝関連遺伝子の同定を目指すと共に、H症候群モデルであるSLC29A3ノックアウトマウスにおいてTLR7が病因となるか否かの検証を進めていく。1.代謝関連遺伝子ノックアウト細胞の作製 : これまでにノックアウト細胞を作製した遺伝子の中にTLR7のssRNA応答に関与するものがないかに関して更に検討を続ける。関与する遺伝子を見出した場合はノックアウトマウスの作製を行う。2. CRISPR/CASシステムを利用したノックアウトライブラリースクリーニング : Ba/F3細胞を用いたノックアウトライブラリースクリーニングではssRNA応答に関与する新規分子は得られなかった為、TLR7によるssRNA応答性が高いJ774細胞を用いてEGFPレポーター細胞を作製した。今後はこのJ774レポーター細胞を用いて引き続きノックアウトライブラリースクリーニングを行っていく。3. 代謝関連遺伝子ノックアウトマウスの作製および解析: H症候群モデルマウスであるSLC29A3ノックアウトマウスをTLR7ノックアウトマウスと交配し、SLC29A3/TLR7ダブルノックアウトマウスを作製する。同マウスを解析することでH症候群におけるTLR7の関与を検証する。また、TLR7の関与がある場合、抗TLR7ブロッキング抗体を用いた治療効果の検討も行う。
実験補助に対する謝金が予測していたよりも少なかった為。
次年度の実験補助を増やし、謝金の上乗せ分として使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/kanseniden/