研究課題/領域番号 |
16K08840
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
毛利 安宏 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 助教 (80464353)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 負の選択 / 胸腺髄質上皮細胞 / Aire |
研究実績の概要 |
胸腺髄質上皮細胞(medullary Thymic Epithelial Cell : mTEC)に特異的に発現するAireがどのように負の選択を制御しているかを検討するために、2種類の負の選択モデル(抗原トランスジェニックモデル)を用いて研究を行っている。その1つであるRat insulin promoter(RIP)下でOvalbumin(OVA)を発現するRIP-OVAモデルは負の選択にAireを必要とする。我々の研究から、このモデルではmTECが負の選択におけるOVA抗原ソースであり、mTEC自身がOVAを抗原提示することが示唆されている。しかし、このモデルにおける負の選択には骨髄由来抗原提示細胞(BM-APC)が必要であり、BM-APCのMHC class IIが欠損した状態では負の選択が起きない。胸腺における主なBM-APCは樹状細胞とB細胞と考えられるので、このモデルにおいて、それらのBM-APCが負の選択に必要か検討した。その結果、樹状細胞欠損、もしくはB細胞欠損下でも負の選択は正常に起きた。このことから、この負の選択には樹状細胞・B細胞両者が重複して関わっている可能性、もしくは樹状細胞・B細胞以外の別の細胞種が関わっている可能性が考えられる。もう1つのAire promoter下でOVAを発現するAire-OVAモデルにおいて骨髄移植・胎仔胸腺移植実験を行った結果、こちらはmTECだけでなくBM-APCも負の選択における抗原ソースとなることが明らかとなった。1)mTECが抗原ソースの場合、2)BM-APCが抗原ソースの場合、の負の選択におけるAireの必要性を検討した。1), 2)の両状態においてAireが欠損すると制御性T細胞の産生が低下した。特に2)の場合にmTECのAire欠損がBM-APCの抗原提示能に影響することを示唆する興味深い結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つの負の選択モデル(RIP-OVA, Aire-OVA)において種々の骨髄移植・胎仔胸腺移植実験を行い、それぞれのモデルにおける抗原ソースとなる細胞種・抗原提示細胞種を検討した。抗原ソースがmTECである場合、どちらのモデルにおいてもAireはmTEC自身の抗原提示能に大きくは影響しないことが示唆された。BM-APCの抗原提示に対するAireの影響に関しては、Aire-OVAモデルを用いた実験から、BM-APCが発現する抗原によって起こる負の選択にAireが必要であることが明らかとなった。これはこれまで提案されてきたmTECからBM-APCへの抗原受け渡しにAireが必要であるという仮説とは異なるメカニズムでAireがBM-APCの抗原提示に影響を与える可能性を示唆している。また、mTECからBM-APCへの抗原受け渡しを検討する実験系を新たに構築し、現在検討を進めている。以上のことから研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
RIP-OVAモデルはmTECが抗原ソースであるにもかかわらず、mTECの抗原提示だけでは負の選択が起きない。逆にBM-APCのみが抗原提示をした場合に負の選択が起きるかどうかは未だに検討されていない。そこでMHC class IIを欠損したRIP-OVAマウスに正常骨髄を移植し、mTECがOVAを発現し(mTECは抗原提示はできない)、BM-APCのみが抗原提示できる状態を作製した。このキメラマウスの胸腺スライスを作製し、スライス上におけるOT-2 T細胞の負の選択および制御性T細胞産生を現在検討している。この実験からmTEC由来の抗原がBM-APCに受け渡され、その後提示されるかどうかを検討可能である。また、胸腺スライスの実験系を用いて樹状細胞やB細胞などの細胞種ごとの抗原提示を検討することも可能である。具体的にはRIP-OVAマウスから樹状細胞、B細胞を単離したのち、OT-2マウスの胸腺スライス上で培養し、OT-2 T細胞の負の選択・制御性T細胞産生を評価する。これらの実験からmTECからBM-APCへの抗原受け渡しのメカニズムの一端が明らかになると期待される。さらに同様の実験をAire欠損マウスを用いて検討することで、BM-APCの抗原提示にAireがどう関与するかを検討することができる。
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