研究課題
PD-1分子がPD-L1分子と結合し、シグナルが伝達されるとPI3Kシグナルが遮断され、Bcl-XLの機能阻害が起こる。これが、PD-1シグナルの本質的な作用であるが、このPD-1シグナルをブロックすると逆にBcl-XLの機能が回復し、エフェクターT細胞が保護される。これによりエフェクターT細胞数が増加し、抗腫瘍作用が増大する。このメカニズムがPD-1免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果で大きな役割を持つならば、Bcl-XLの機能亢進作用を有する製剤と相乗効果を示すことになる。そこでBcl-XLの機能亢進剤とPD-1免疫チェックポイント阻害剤との相乗作用を検討した。Bcl-XLの機能亢進剤はミトコンドリアに作用し、Bcl-XLの発現を亢進し、細胞保護を行う分子である。このことから、Bcl-XLの機能亢進剤をPD-1免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることにより、どの程度の抗腫瘍効果の亢進があるのか詳しく検討した。まず、in vitroの検討においては、成人T細胞白血病患者由来の末梢血単核球に第4世代ビスホスホン酸とIL-2/IL-18を作用させ、10日後にATL細胞がどの程度減少しているか検討を行った。次にin vivoの検討においては、担がんマウスに抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体を投与し、その際、IL-18投与により腫瘍増殖がどの程度遅延するか検討を行った。また、Bcl-XLの機能亢進剤の4量体の作成を行った。そして、この4量体を用いて、PD-1免疫チェックポイント阻害剤との相乗作用に関して検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤と相乗作用を示す高分子製剤の探索を行った。PD-1免疫チェックポイント阻害剤は、Bcl-XLの機能阻害を解除する作用があるため、PD-1免疫チェックポイント阻害剤とBcl-XLの機能亢進剤を併用することにより、PD-1免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍作用が亢進することが予想される。実際、マウスの系においては、PD-1免疫チェックポイント阻害剤とBcl-XL機能亢進剤との併用効果が観察された。平成29年度は、Bcl-XL機能亢進剤の効果をさらに改善するため、Bcl-XL機能亢進剤の4量体化を行った。大腸菌での発現系においては、GGGGSの5xリンカーを用いることにより、4量体形成タンパク質のN末端側にBcl-XL機能亢進作用を有するタンパク質を結合させた。また、培養細胞系では、EBNAタンパク質を導入したエピソーマルベクターを用いて、Bcl-XL機能亢進作用を有する4量体タンパク質の調製を行った。このようにして調製したBcl-XL機能亢進剤4量体とPD-1免疫チェックポイント阻害剤の相乗効果をin vitroの系で検討したところ、T細胞の抗腫瘍作用の亢進が確認された。さらに、in vivoのマウスの系で検討した結果、有意な奏功性の亢進が見られた。以上のように、当初予定していた、Bcl-XL機能亢進剤を用いたPD-1免疫チェックポイント阻害剤の機能亢進に成功した。以上のことより、平成29年度の研究は当初予定していたとおりに進行し、自己評価として、予定通りの進行と判断した。
平成30年度は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤と相乗作用を示す低分子製剤の探索を行う。まず、ヒト末梢血に第4世代ビスホスホン酸を作用させ、γδ型T細胞を増殖誘導し、エフェクター細胞として用いる。一方、PD-L1を強制発現させたヒトDaudiバーキットリンパ腫細胞に、テルピリジン誘導体を25μMで作用させ、RPMI1640培地で洗浄した細胞を標的細胞として用いる。アッセイ系としては、標的細胞105個に対して、エフェクター細胞105個を作用させ、60分後に細胞培養上清を回収する。ここに、ユーロピウムを添加することによりキレートを形成させる。このランタノイド系金属を含有するキレートは励起すると時間分解蛍光を発するためバックグラウンドの低い測定が可能になる。この系に低分子化合物ライブラリーを添加することにより、細胞障害性を亢進する化合物の探索を行う。具体的には、東京大学創薬機構の21万種の化合物、京都大学の3万種の化合物、大阪大学の6万種の化合物に加え、長崎大学に保有されている2万種の海洋微生物ライブラリーをスクリーニングすることにより、PD-1免疫チェックポイント阻害剤と併用効果が期待される化合物を取得する。この際、長崎大学に設置された大型創薬スクリーニング機器を用いて、効率的なスクリーニングを行う。このようにしてヒット化合物が得られた場合には、合成最適化を行い、さらに、安全薬理試験も行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 8件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
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