研究課題/領域番号 |
16K08845
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
海川 正人 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00325838)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Angptl2 / 受容体 / 炎症 |
研究実績の概要 |
Angptl2は腹腔マクロファージを活性化し、IL-6、TNFαなどの炎症性サイトカインやNO等の炎症性の生理活性物質の産生を強く誘導する。本研究ではAngptl2遺伝子を導入した培養細胞が産生し、培地中に分泌されたAngptl2を用いて Angptl2の作用機構の解明を試みる。 本年度は、Angptl2の結合を指標に受容体の同定を試みた。まず、Angptl2の結合能を指標にFACSを用いてAngptl2結合膜蛋白質を発現している細胞のスクリーニングを行った。HEK293培養細胞由来の分泌型Angptl2 蛋白質の各種培養細胞への結合を調べた結果、HEK293T、C2C12、NIH3T3、EAHY細胞に非常に強く結合を示し、THP1、Raw、Jurkatなど血球系の細胞には中程度の結合を示したが、マウスproB細胞株Ba/F3細胞には全く結合しなかった。そこでHEK293Tの遺伝子発現ライブラリーをBa/F3細胞に導入し、Angptl2に結合する分子の遺伝子が導入された細胞のFACSによる分離、濃縮を試みたが、Angptl2の結合が見られる Ba/F3細胞は得る事が出来なかった。 また、Angptl2が肝細胞および、脾臓細胞に結合する事から、肝細胞と、脾臓細胞からAngptl2に結合する細胞外蛋白質の分離を試みた。しかし、細胞に結合したAngptl2は様々な界面活性剤処理によっても抽出する事が出来ず、結合蛋白質を抽出、同定する事が出来なかった。 Ba/F3細胞がヘパラン硫酸を持っていないことや、細胞表面分子と化学架橋したAngptl2は Ureaなど強力な蛋白質変成剤によっても抽出する事ができないことから、Angptl2は蛋白質ではなく、グルコサミノグリカンのような、巨大な非蛋白質分子と結合している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Angptl2の細胞への結合が 蛋白質以外の物質に依存している可能性が高いという想定していなかった結果から、通常の受容体同定の手法がAngptl2の標的分子の同定に有効ではなかったと考えられる。 昨年の研究結果からも、腹腔マクロファージの活性化も Angptl2蛋白質の糖や脂質など何らかの修飾によるもの、あるいはAngptl2に結合する蛋白質以外の物質に依存している事が示唆されており、Angptl2の作用はこれまで報告のあるような単純な蛋白質同士の相互作用による物ではない可能性が高い。 これまでに Angptl2の標的蛋白質は複数報告されているが、いずれも結合、作用、生理的アウトプットの全てが証明されていないことから、Angptl2の受容体を同定し作用機序を解明することは簡単なものではないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Angptl2による腹腔マクロファージ活性化には蛋白質以外の因子の関わりが示唆され、蛋白質以外の因子とAngptl2の相互作用が関与していると考えられる。そのため、Angptl2と共に精製されてくる物質を生化学的手法によって分離し、腹腔マクロファージ活性化能を示す物質の同定を試みる。 また、Angptl2はN末端ドメイン、中央のCoiled-coilドメイン、C末端のフィブリノーゲンドメインに3つのドメインからなる。それぞれの領域を欠損したAngptl2を発現、精製し、腹腔マクロファージの活性化能を解析する事で、活性化に必要なドメインを明らかにし、マクロファージ活性化因子の同定に繋げる。 さらに、作製したAngptl2特異的抗体により Angptl2の蛋白質の発現が心臓で強い事を確認できたため、免疫組織染色により心臓組織に存在するAngptl2発現細胞を同定し、 腹腔マクロファージ以外のAngptl2の標的細胞の探索を行う。 Angptl2発現細胞の培養日数によりマクロファージ活性化能のあるAngptl2と活性のないAngptl2が得られる。活性のないAngptl2にも炎症性反応以外の作用がある可能性があるため、活性のないAngptl2で刺激後、遺伝子発現の変化をマイクロアレイ法で解析し、炎症性反応以外の作用を検索する。 以上の研究を進めて、Angptl2による免疫細胞の活性化機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
腹腔マクロファージの活性化が Angptl2蛋白質の糖や脂質など何らかの修飾によるもの、あるいはAngptl2に結合する蛋白質以外の物質に依存していると考えられたことから、Angptl2の結合を指標に受容体のクローニングを試みた。 そのため、新たに腹腔マクロファージの遺伝子発現ライブラリーの作成し、受容体の発現クローニングによる腹腔マクロファージ特異的なAngptl2受容体の同定実験を本年度は行わなかった。 さらに、受容体の同定を完了できなかったため、それに続く解析に着手する事が遅れていることから、解析にかかる予算を次年度に持ち越すこととした。
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