研究課題/領域番号 |
16K08849
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
植田 祥啓 関西医科大学, 医学部, 講師 (90533208)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
胸腺スライス培養系を用いて制御性T細胞の産生を誘導する実験系を確立するために、OVA特異的T細胞受容体を持つOT-IIマウスの胸腺からCD69+CD4単陽性細胞を単離して、胸腺組織に導入し0.03-1μMのOVAペプチド存在下で4日間培養した。培養開始1日後、抗原存在下では細胞数が低下したことから負の選択が誘導されていることが示唆された。その後細胞数は2日目以降に抗原濃度依存的に増加した。制御性T細胞のマーカーとしてCD25(IL-2受容体α鎖)とFoxp3がある。導入細胞のCD25の発現は培養1日目から検出されたが、FoxP3発現は抗原の濃度によらず一日目では観察されず、2日後に検出され始め、3-4日で急激に発現上昇が観察された。Foxp3陽性細胞数は0.3μMまでは抗原濃度依存的に上昇したが1μMでは低下した。3日目以降の細胞数のFoxp3陽性陰性ともに起こっていた。これらの結果は今までの制御性T細胞の分化の報告と一致するものであり、胸腺スライスにおける制御性T細胞の分化の実験系が確立したと考えられた。 この実験系を用いて、制御性T細胞の分化のシグナルを明らかにするために、T細胞の活性化指標であるNur77の発現、CD25の下流STAT5のリン酸化、および制御性T細胞分化に必須なcRelの発現を検討したところNur77の発現は1日目に観察された。CD25を発現細胞でSTAT5のリン酸化は2日目に、cRelの発現上昇は3日目に観察された。cRelの上昇はIL-2Rを発現してない導入細胞は起こらなかった。予備的ではあるがBimの発現は活性化によって1日目にCD25陽性細胞に上昇がみられたもののcRelに比べて発現の上昇は小さかった。cRelの発現レベルの差が細胞死の感受性を決定している可能性がある。今後抗原濃度による影響を含め、詳細なキネティックスを検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胸腺スライスを用いた制御性T細胞の分化の系を確立することができ、制御性T細胞の分化の各段階を追跡することができるようになったのに加えて抗原濃度などを変えて制御性T細胞の分化の影響を確かめることができるようになった。また、細胞内染色により培養細胞におけるcRelやbimの発現およびNur77やpSTAT5における検出でき、制御性T細胞の分化に必須のシグナルを制御性T細胞の分化段階ごとに検討することができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
胸腺の3次元組織環境における選択過程の可視化と動態解析をするために胸腺組織内の負の選択及び制御性T細胞への分化の過程を可視化する。Caspase3のFRETバイオセンサーであるSCAT3のTgマウス、または制御性T細胞のマーカー遺伝子であるFoxP3-IRES-GFPマウスマウス由来の胸腺細胞を用いてアポトーシスや制御性T細胞への分化の過程を可視化して経時的に追跡する。また、c-Relなどの蛍光プローブをレンチウイルスあるいは遺伝子導入マウスを作製することにより胸腺細胞または導入して可視化し、組織中のbimやc-Relの発現及び活性化細胞をイメージングで同定する。抗原提示細胞である髄質上皮細胞を可視化するためにAire-GFPノックインマウスとRIP-mOVAマウスと交配したマウス由来の胸腺スライスを用いる。樹状細胞の可視化はCD11c-YFPマウス由来の胸腺スライスを用いる。蛍光バイオセンサーの導入などの問題でイメージングができない場合、培養中の胸腺スライスから凍結切片を作製し、免疫組織染色によりBim, Nur77, c-Rel, smad3, STAT5を発現する細胞を同定する。予備実験により胸腺スライスにおけるイメージングに用いるcRel等の可視化プローブの一部はサイズが大きくレンチウイルス法により遺伝子導入が困難であることが判明したため、ノックインまたはトランスジェニックマウスを作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
胸腺スライスにおけるイメージングに用いるcRel等の可視化プローブの一部はサイズが大きくレンチウイルス法により遺伝子導入が困難であることが判明したため、ノックインまたはトランスジェニックマウスを作製したい。また、論文を投稿するための必要経費を確保したい。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子改変マウスの作成等に使用する。 論文の校正および投稿費用に使用する。
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