研究課題/領域番号 |
16K08852
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今西 貴之 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 研究員 (10513442)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | T細胞 / 獲得免疫 / 自然免疫 / I型インターフェロン |
研究実績の概要 |
我々はこれまでの研究で獲得免疫を担うT細胞に発現するSTINGの機能的役割を検討した結果、STINGのリガンドがT細胞の増殖を強く抑制することを見出した。このSTINGを介したT細胞の増殖抑制はIRF3に部分的に依存していた。そこで本年度はSTINGを介した増殖抑制の分子機構とT細胞のSTINGの機能的役割を明らかにする。 T細胞をSTINGリガンド単独で刺激してもI型インターフェロンの産生は認められなかったが、TCR刺激存在下では自然免疫細胞と同程度のI型インターフェロンの産生が認められた。このSTINGを介したI型インターフェロンの産生はIRF3欠損マウス由来のT細胞で完全に消失した。そこでI型インターフェロン受容体(IFNAR1)欠損マウス由来のT細胞を用いて、STINGを介した増殖抑制におけるI型インターフェロンの役割を検討した結果、IFNAR1欠損マウス由来のT細胞でSTINGリガンドによる増殖抑制が部分的に減弱することが明らかになった。自然免疫系ではTBK1によるIRF3の活性化がI型インターフェロンの発現誘導に必須であるが、T細胞ではTBK1欠損細胞においてもSTINGリガンドによるT細胞の増殖抑制が正常に認められることをこれまで明らかにしてきた。一方、IRF3のリン酸化とI型インターフェロンの産生誘導はTBK1欠損T細胞で部分的な減少が認められた。そこでTBK1と相同性の高いIKKεの欠損マウス由来のT細胞をSTINGで刺激したところ、T細胞の増殖抑制は正常に認められたが、IRF3のリン酸化とI型インターフェロンの産生誘導は部分的な障害が認められた。このことからTBK1とIKKεはSTINGの下流で協調的にIRF3の活性化を誘導し、I型インターフェロンの産生誘導を介して、T細胞の増殖抑制に部分的に寄与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はSTINGを介したT細胞の増殖抑制の分子機構を明らかにすることを目的としていたが、STINGがIRF3依存的に誘導するI型インターフェロンの産生がT細胞の増殖抑制に部分的に寄与することを明らかにすることができた。このSTINGを介したI型インターフェロンの産生にはTBK1とIKKεの両方が必要であることを明らかにすることができた。 これまで抗ウイルス応答に重要なI型インターフェロンの産生は自然免疫系の細胞が担うと考えられてきたが、T細胞もTCR刺激で活性化されるとSTINGを介して自然免疫細胞と同程度のI型インターフェロンを産生できることを見出した。 このようにSTINGを介したT細胞の増殖抑制の分子機構を完全ではないが、部分的に解明できたことから本年度は概ね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
STINGのリガンド存在下で活性化したT細胞の細胞周期はG1/S期で停止しており、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)1/2/4やサイクリンA/B/Dの発現がI型インターフェロン非依存的に減少することをこれまで明らかにしてきた。そのため今後はSTINGによるI型インターフェロン非依存的なT細胞の増殖抑制機構を明らかにする。特にSTINGの活性化がT細胞の増殖を制御するTCRシグナルに及ぼす影響を調べる。 IRF3とIRF7は相補的に機能することが知られているため、IRF3とIRF7の二重欠損マウス由来のT細胞を用いて、STINGによる細胞増殖の抑制への影響を調べる。 STINGリガンドの生体への投与は抗原特異的な抗体産生を増強したり、抗腫瘍効果があることが報告されているため、T細胞のSTINGがこれらのin vivoでの応答に果たす役割を調べる。
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