研究課題/領域番号 |
16K08901
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 武宏 北海道大学, 大学病院, 准教授 (50568649)
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研究分担者 |
石黒 信久 北海道大学, 大学病院, 准教授 (40168216)
井関 健 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (40203062)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | daptomycin / クレアチンホスホキナーゼ / 低酸素 / TDM |
研究実績の概要 |
1)抗MRSA薬ダプトマイシン(Daptomycin; DAP)の血中濃度とCPK上昇については、CPK上昇例が全対象患者のうち約5%に発現していたが、血中濃度中央値では両群間に差が認められた。このため、DAPの血中濃度(トラフ値)が高い場合、CPKの上昇が起きやすくなる一定の傾向が認められたが、血中濃度がどの程度まで上昇すれば、CPK上昇が発現しやすくなるのかについては更なる検証が必要と考えられる。 2)DAPのヒト培養筋芽細胞に対する直接毒性を検討したが、細胞内酵素の逸脱は認められず、通常の培養条件下では障害活性は認められなかった。しかしながら、低酸素条件(酸素1%、48時間処理)での検討では、DAP1000 mg/Lまでの濃度で、著明なLDHの逸脱が認められ、一方でMTT活性によって測定される細胞増殖能は抑制されていた。骨格筋毒性がDAPに比べ低いとされる抗MRSA薬バンコマイシン(Vancomycin; VCM)についても同様の検討を行った。VCMではMTT活性の低下は認められたが、LDHの細胞外への逸脱は認められなかった。したがって、DAPには、通常酸素条件下では毒性は示さないものの、低酸素条件において骨格筋に対する直接的な毒性を示す可能性が示唆された。MRSA感染症のグローバルスタンダードであるVCMには、いかなる条件においても、骨格筋に対する顕著な毒性は観察されなかった。
以上より、DAP血中濃度が高い場合はCPK上昇が起きやすくなる可能性が示唆されたことに加え、細胞レベルでは、骨格筋細胞が低酸素状態に晒されると、DAPの骨格筋毒性が発現することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
基礎研究データに関しては、当初、通常の培養条件では骨格筋細胞に対するDAPの毒性は観察できなかったため、毒性を検出する実験系の構築にやや時間を要した。しかしながら、結果として低酸素条件(1%酸素)において、DAPの骨格筋毒性が発現するという新規知見が得られた。なお、同時に比較対象として検討したMRSA感染症治療の第一選択薬VCMには、そのような作用がなく、恐らくDAP特有の作用であると考えられる。臨床データについては、血中濃度データが概ね揃い、CPK上昇とDAP血中濃度との関連性についての解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
基礎研究で得られた、低酸素条件におけるDAPの骨格筋毒性の詳細を明らかにする予定である。具体的には、DAP処理によりアポトーシスが誘導されているのか否か、また細胞に対するDAPの作用点や、毒性発現のシグナル伝達機構について検討を加える。 また、低酸素条件下でDAPの骨格筋細胞毒性が観察されたことから、臨床におけるDAP誘発性のCPK上昇が見られた症例において、組織低酸素状態を来す病態が認められたか否かを後ろ向きに調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、毒性の検出までに時間を費やしたため、その後のシグナル伝達解明のための実験(主にウエスタンブロッティング等抗体を用いる実験)をほとんど実施できなかった。しかしながら、DAP毒性が低酸素条件で発現することを確認できたため、29年度はその分を主にウエスタンブロッティングの抗体の購入用費用として計上する。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額については、主にウエスタンブロッティングの抗体を購入する費用として使用する予定である。
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