研究課題/領域番号 |
16K08908
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
久米 学 神戸大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (10720922)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シスプラチン / 炎症 / 膜透過性 |
研究実績の概要 |
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)をトランスウェル上に均一に播種し、血管膜モデルを構築した。まず、本モデルの妥当性を評価するためにFITCデキストランの膜移送を検討した。FITCデキストラン単独を細胞不在のトランスウェル内側に処置すると一定時間後の外側の培地にFITCデキストランの移送が認められるが、細胞存在下ではウェル外側への移送は認められなかった。一方、炎症性物質であるサイトカラシンBを炎症状態のポジティブコントロールとして共存させるとウェル外側のFITCデキストラン濃度が上昇することを確認した。この血管膜モデルを用いて、シスプラチン処置時の膜透過性に及ぼす共存因子の影響を評価した。シスプラチン単独の処置においては処置時間依存的に膜透過量の亢進を認めた。また、サイトカラシンBとシスプラチンの共存により、細胞不在条件とほぼ同等のシスプラチン膜透過を認めた。一方、シスプラチンとヒスタミンの共存においてはシスプラチンの膜透過性が亢進しないことを明らかにした。ヒスタミンの膜透過性亢進作用については、極めて短期間の作用であることが報告されていることから、シスプラチンの手術直後の高度炎症状態における血中濃度低下にヒスタミンの寄与は小さい可能性を示した。これまでの検討において、TNF-αやIL-1βの共存時にシスプラチンの膜透過性が亢進することを明らかにしていることから、手術直後の高度炎症状態におけるシスプラチンの血中濃度低下においては、サイトカインの影響を受ける可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では血管内皮細胞を用いた基礎的検討は初年度に完遂する予定であったが、白金測定の外部委託先の選定に時間を要したことや、人員不足のために進捗は若干遅れている。血管内皮細胞を用いた基礎的検討については、低分子生理物質の関与は小さく、サイトカインの影響が大きいことを明らかにしたため、最低限の成果は得られたと考える。しかし、動物実験や臨床試験への橋渡しとなる結果を再現よく収集する段階に到達していないことが課題である。また、マウス炎症モデルを用いた動物実験については実施できていない。要因として動物実験の開始には所属部署の動物実験実施体制を新規に構築する必要があり、動物実験の従事にかかる手続きや基本的物品の購入に充てる費用と時間を確保することが困難であったことが挙げられる。今後も自施設での動物実験を実施するには上記の障壁があることから、動物実験については当初の計画を変更する必要がある。臨床研究については、すでに自施設の倫理委員会で承認された試験が進行中である。臨床データの解析については実施担当者を任命し、責任者と独立した体制で進める必要があるが、平成29年度には解析まで完遂することができなかったため、次年度の課題である。白金製剤は未だ多くのレジメンで共通に使用される極めて重要な薬剤であり、今後も使用患者が減少することは考えにくい。
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今後の研究の推進方策 |
細胞を用いた基礎的検討については、動物実験や臨床研究への橋渡しとなるデータを収集するに至らなかった一方で、手術直後の高度炎症状態におけるシスプラチンの血中濃度低下において、サイトカインの影響を大きく受けるという最低限の知見を見出すことに成功した。今後の臨床研究の解析を見据え、極力測定などを外部業者に委託し、予備検討の必要がない標準化された実験方法に基づき、最小限の基礎実験を行うこととする。必要に応じて研究協力者の人的資材も活用することを検討する。また、実験試薬についてもキット化された製品の購入や効率性を高める器具の購入なども検討する。マウス炎症モデルを用いた実験については、細胞による基礎的検討と臨床研究の加速化のために、中止することとする。動物実験に使用予定であった消耗品類の予算やエフォートについては、細胞による基礎的検討や臨床研究の検体測定費用に割り当て直すこととする。臨床研究においては、部内のスタッフを効果的に活用し、データ解析などを進める。臨床検体の測定は外部委託とし、データ解析を集中的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究の実施スタッフの不足から、基礎的検討の実験量が減少したことが大きく影響した。また、当初予定していた動物モデルを用いた実験を実施していないことが次年度使用額が生じた最も大きな要因の一つと考えられる。動物実験の予算として単年度分の予算の大部分を占めていたことから、この見込み額が余剰となった。 (使用計画)上述の理由により、部内の体制のみでは実験量が担保できない可能性がある。外部委託で実施可能な項目については、可能な限り外部委託業者に実験を委託するため、前年度より支払いが大幅に増額することが見込まれる。また、キット製品や実験効率化のための器具などの購入を行うことにより、実験の単価が高額化することが見込まれる。さらに、本学の共同利用機器を使用する際の機器利用料および使用者登録料も発生することが予想される。以上より、未使用額が使用されない可能性は低い。
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